第2話 ゴブリン狩り
――霧の塔2階――
「ふぅ、やっとここまで来れたよ」
霧の塔に入ってから一時間程経過しただろうか。
ようやく二階に到着した私は、最初に出た部屋に魔物が居ないことを確認して小休憩を取っていた。
「うーん、体が少し痛いかな……」
1階でもふもふの魔物と連戦したことで、私はHPもMPも結構消耗していた。
微量とはいえ、こうやって休憩していれば少しずつ回復していくはずなので定期的に休みを取る必要がある。
といってもずっと休むわけにはいかない。
「――よし、そろそろ行こうかな」
私は立ち上がり軽く体を動かしてみる。
「<オープン>」
私は自分の状態を確認してみる。するとHPもMPも微量だが回復してきていた。
一応回復アイテムは持っているが、1個ずつしかない。5階まで進むなら温存するべきだろう。
そう思いながら私は2階の探索を開始する。
霧の塔の2階はさっきのようにグルグル回る感じではなく、通路と小部屋に区切られた構造だった。
「それにしても、今の所誰にも出会わないなぁ……」
今日来ていた冒険者見習いは私一人だから出会わないのは当然かもしれない。
慣れた冒険者ならポータルでより上層からスタートをしている筈なのだ。
そんなことを考えているうちに、私は次の部屋に到達した。
「……げっ」
部屋に入ると2匹の1階に見たもふもふの魔物が待ち構えていた。
私は通路に一旦戻り考える。
「またあの子たちと戦うのかぁ……」
正直あまり戦いたくない相手だった。
まだ、どちらもこちらに気付いていないが少し時間が経てば襲い掛かってくる。
しかし、部屋の探索は終わってないしここも避けては通れない。
「……そう言えば、あの子たちって何て名前なんだろう」
私は、通路から部屋に頭と腕だけ出して魔法を使用した。
「<ルック>」
霧の魔法の一つ、この魔法をアイテム効果を見る以外に魔物の名前を見ることが出来る魔法とあった。さて、どんな名前なのだろうか。
【名前:もふちゃん】種族:犬型モンスター Lv1
説明:白い毛玉のような魔物、人懐っこそうに装って襲い掛かってくる。
「…………もふちゃん」
名前が可愛すぎる。誰が付けたんだろうこれ。
私がそんなことを考えてるうちに、一匹がこちらに気付き近寄ってきた。
しかし牙とかを見せずに可愛らしく『クゥーン』とか鳴きながら寄ってきた。
これは油断させるための演技だろう。
「……っ!」
私は無言でその場から逃げ出す。
すると、もふちゃんはさっきの甘えんぼモードは何処に行ったのか、
牙を見せながら追いかけてきた。
私は逃げながらその姿をチラッと確認してから足を止め、
振り向きざまに剣で攻撃した。
『ギャン……!』
もふちゃんは剣で斬りつけられて、床にコテンと倒れてそのまま消滅した。
「……」
何だろう、この罪悪感……。
私は剣を振り切った姿勢のまま立ち尽くしていた。
「ま、倒さないと先に進めないもんね……」
私は自分に言い聞かせるように呟くと、部屋に居たもう一匹を剣で倒した。
今度は甘えんぼモードにすらさせずに駆け寄って即殺だ。
躊躇うと攻撃できなくなる。
その部屋を探索すると、またアイテムが落ちていた。
「あ、これは回復ポーションだ」
市販品だが、冒険者にとって必需品だ。いくらあっても損はない。
私はそれを拾い上げて<マジックボックス>の中にしまい込む。
そして次の部屋に向かうと、今度は別の魔物が一匹居た。
「あれは……」
あの姿の魔物は知ってる。おそらく年間で最も冒険者に狩られている。
その名前はゴブリン。緑色の肌をした醜い顔の子供ぐらいの大きさの魔物。
武器や防具を身に付けており、
集団で行動することが多く非常に厄介な魔物とされている。
「うわぁ、直接見るとやっぱり怖い……」
見た目だけで判断するならとてもじゃないが友好的な魔物ではない。
ゴブリンと人間が友好的な関係になった例は一度もなく、ギルドでも最優先で討伐が求められる魔物だ。冒険者になれば最も戦う機会の多い魔物だとも言える。
「――よし」
私は覚悟を決めて剣を抜き、部屋に入る。
するとゴブリンもこちらに気付いたのか視線を合わせて、
にたりと醜悪な笑いを浮かべた。
……ゴブリンは人間の敵だと言われているが、
その根拠の一つに村を襲って家畜や作物を奪い、女性を浚うことが一例に挙げられる。そう、女性だ。女性を浚って何をするかというと……。
「――きゃあああっ!!」
ゴブリンは叫び声を上げて逃げ出した私の後を喜んで追ってきた。
そう、この魔物は女性の悲鳴を上げる姿を好み、それを見ながら暴力を振るったり犯すのが好きなのだ。
だからこうすればゴブリンは油断しながら追っかけてくる。そこを――
「はあぁぁぁぁ!」
私は部屋を出たすぐ横で待ち構え、
ゴブリンが出てきたと同時に剣を振り上げ、頭を狙って振り下ろした。
『ギャアァッ!』
頭を割られ、ゴブリンはその場で倒れた。
「……ふぅ」
私は大きく息を吐いた。
正直、心臓がバクバクして今も手が震えている。
「――私だって、いつまでも子供じゃいられないんだよ」
ゴブリンの血で穢れた剣をポーチにあるハンカチで拭いながら独り言を呟いた。
そんなことを言っている間に、ゴブリンは黒い煙をあげて消えていき、ゴブリンが持っていた棍棒だけが残された。
「ゴブリンの棍棒かぁ……」
私は、<ルック>の魔法を使用し、その詳細を調べた。
【名前:ゴブリンの棍棒】
効果:ゴブリンが使っていた武器。そこそこ使い込まれている。基本攻撃力+5
「……これ売ってもあまり高く売れなさそうだなぁ」
私の腕力でも使えなくないが、使うことは無さそうだ。
一応<マジックボックス>に収納して私は先を急いだ。
その後、数体のゴブリンを悲鳴で釣って倒しながら私は先に進んだ。
すると……部屋の中心に宝箱が一つ置いてあった。
「おぉ! これが噂の宝箱だね!!」
童話とか小説の中ではよく見るけど実物は初めて見た。
金と赤で彩られた、中身が無かったとしても箱だけでも価値がありそうな宝箱だ。
私はおそるおそる宝箱を開いた。すると……。
「えーっと……銀貨十四枚」
銀貨は一枚あれば一番安いパンが十個ほど買える。
回復ポーションなら銀貨一枚でギリギリ買えるくらい。
冒険者がお酒と食事を頼んだら銀貨二枚や三枚消えたりするが、
銀貨十四枚なら結構な大金だ。
これは嬉しい。しかも宝箱の中にはもう一つあった。
「これってバックラーだよね?」
バックラーとは円形盾の事だ。防御力よりも攻撃を受け流すことを目的とした比較的小型の盾。希少な装備では無いけど、防具屋で買おうとするなら銀貨ではとても足りないだろう。
「ちょっと使ってみようかな……おっ」
都合よくゴブリンがこちらに向かってきていた。
私はバックラーを左手に持ち、右手には剣を持ったまま構えた。
「えぇと、確か利き手じゃない方で持つのが基本なんだっけ?
まぁいいや。えいっ」
走ってきたゴブリンに向けて盾を突き出してみると、ゴブリンはその一撃を受けて後方に吹き飛んだ。
「おお、凄い」
小型とはいえ結構重いが、これは鈍器としても結構使えそう。
私はそのまま倒れ込んだゴブリンに剣で止めを刺す。
「よーし、次はこっちから行くぞー」
私は調子に乗って他のゴブリンに向かって行った。
わざと声を出しておびき寄せ、
手に持ったバックラーでゴブリンの棍棒を受け止めて外側に受け流す。そしてー
「てやぁぁぁ!!」
そのままバックラーを突きだし、ゴブリンの顔面にぶつける。
『ギャッ』と短い悲鳴を上げ、ゴブリンはそのまま後ろに倒れた。
その隙を狙い、頭に思い切り剣を叩きつけた。
「はぁっ!!」
ゴブリンは煙となって消えた。
そしてそんなことを繰り返してるうちに、
また回復ポーションを1個手に入れて3階に上がる階段を見つけた。
「よーし、このまま行っちゃうよー!!」
私は手に入れたバックラーが気に入って張り切って3階に向かった。
どうでもいいけど、少しお腹が空いてきたかもしれない……。
――現在の状態――
【名前:サクラ 職業:冒険者見習い】満腹度35/100
レベル 4 HP 23/42 MP 10/25 攻撃力19(+7) 魔力 18 素早さ 16 防御力8(+10)
装備:ソード+1(+7) 皮の服(+5) バックラー(+5)
所持技能:剣の心得Lv3 盾の心得Lv1(New) 挑発Lv1(New)
所持魔法:マジックアロー、ファイア、ファーストエイド
特殊魔法:霧の魔法(ルック、マジックボックス、オープン)
所持アイテム:8/20 銀貨14枚
【霧の魔導書】【ショートソード】【パン】【回復ポーション3個】【魔法の霊薬】【ゴブリンの棍棒】
補足:小休憩を挟んだことで少しだけHPとMPが回復した。
【名前:バックラー】
効果:円形で敵の攻撃を受け流すように作られた小型の盾 基本防御力+5
正しく使えば弱い攻撃なら無傷で受け流すことが可能
New skill
【盾の心得】盾を使う技術、レベルが上がると防御力と回避率が上昇する。
また、盾を使った【シールドバッシュ】という技が使用できる。
【挑発】声を出して敵を呼び寄せる。
レベルが上がると挑発出来る敵が増えるかもしれない。
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