ちょっと不思議な霧の塔編

第1話 初めての戦闘

 ――霧の塔1階――

 霧の塔に入ると、私は周囲を見渡した。

 ここは塔の入口付近みたいで、周囲には特に何もない。


「よしっ、行くぞー!!」

 私は元気よく歩き出した。……しかしその時、目の前から何かが飛び出してきた!


「きゃあっ!?」

 驚いて尻餅をつく私の前に現れたのは――


「……え?何?」

 私の目の前に現れたのは白くて丸っこい生き物だった。

 猫のようなピンとした耳を持っており目も大きい。


「……なんだろう、この子、ふわふわしててすごく可愛いんだけど……」

 私はつい猫を撫でるように、片膝を付いて撫でようとした。


 すると――


『キシャアアアア!!!』「わあぁぁぁぁぁぁ!?」

 突然その白い生物が大きく口を開いて牙を剥いて威嚇してきた!!

 私は驚きながら、咄嵯に後ろに跳んで距離を取る。


「な、何?もしかして、この子魔物なの!?」

 私はショートソードを鞘から抜いて、構えるが……。

「う、うう……攻撃しづらい」

 見た目が可愛すぎて、どうしても斬りたくない。


 そもそもこんなふわふわしてる子を斬るなんて……。

「……そうだよね、こんな可愛い子をいきなり襲ってくるわけがないよね

 ……ちょっと戻ってミライさんに聞いてこよう」

 そう思い私は背を向けるのだが……。


「……あれ?出口どこ?」

 自分が入ってきたはずの入り口が何処にも無かった。


「ちょっ!?え、どういうこと!?」

 周囲を見渡すけど、やっぱり何処にも入ってきた入り口なんて見当たらない。

 いや、建物の内部まで霧が入り込んできて入り口が隠されているのか。


「ど、どうしよう……出ようにも出口が……」

 私が焦っていると、また先ほどの魔物らしきふわふわが襲いかかってきた。

「ひいっ!」

 慌てて剣を振るうけど、小さくて全然当たらない。


 ――いや、自分が攻撃したくないのだ。


「くっ……でも」

 フゥ……と私は息を吐く。


「――覚悟を決めるしかないよね……」

 私は深呼吸をして相手をよく見る。

 魔物は通常の動物と違って周囲の魔力を消費しながら生きている。

 そのため、大気に存在する魔力を常に体に吸収しながら活動している。目の前の生き物もまさにそれだ。よく目を凝らしてみると、周辺から魔力を取り込んでる。


「―――魔物」

 私はまだ魔物との戦闘経験は無い。

 だからまだ敵意や殺意に対して疎いけど、この震えが奔る感覚……。


「――これが、魔物と戦うということ……!」

 そこにそのふわふわした魔物は、大きな口を開け鋭い牙を見せながら飛びかかってきた。

「――はっ!」

 私はそれを冷静に見極め、そして剣を振り抜く。

 私の剣と魔物の牙がぶつかり合い、魔物の鋭利な牙が砕けた。

『ガグウウッ……!』

 魔物は牙が折れた痛みで口から血を流しており、さっきと違って怯えるように私から距離を取るように後ろに下がっていく。


「……ごめんね、痛かったよね」

 それでも人を襲う魔物を放置するわけにはいかない。

 冒険者の仕事は魔物から人々を守ることだ。それが出来ないなら私は冒険者になる資格なんかない。

 私は素早く魔物に駆け寄り、ザシュッ……と私の剣はふわふわの魔物を皮膚を大きく切り裂き、そこから血が迸った。


『ギィヤァァ!!』「……」

 私は初めて魔物を仕留めたのか。

 魔物はピクピクと微かに動いた後に力尽きたのか目を閉じ、

 すぐに黒い煙をあげて消滅した。


「……はぁ……はぁ……」

 今、私は初めて魔物と殺し合いをしたのだ。

 初めての死闘だったけど、普段の練習通り体が動いた。


「大丈夫、私は戦える……!」

 震える体を無理やり抑え込み、自分に言い聞かせる。

 ここで怖がっているわけにはいかない。


「――よしっ、行こう!!」

 私は再び歩き出す。戻る気はない。

 こんなところで覚悟が出来ないなら次に死ぬのは自分の方だ。


 ◆


 塔の中は静まり返っており、物音一つしない。


「さっきの魔物が出たら……」

 次は流石にあんなだまし討ちは喰らうことは無いけど、心情的に戦いたくないのは確かだ。今は塔の中をぐるぐる回りながら真ん中に向かっている。中央には階段があるはずだからだ。


「あ、あった!」

 塔の中央にある階段を見つけることが出来た。


「よし、二階に行くぞー!」

 と私は気合いを入れて駆けあがろうとしたのだが――。

「ん……あれ?」

 二階に続く階段から、大量の毛玉……ではなく、

 入り口でみたふわふわの魔物が落ちてきた。


「ちょっと、多いよー!」

 私は階段を引き返して、細い通路に逃げ込む。


『シャアア!!』『キシャアアア!!』『ギイイ!!』

 次々と現れるふわふわの魔物たち。

 一体一体は小さいから大したことないんだけど、数が多すぎる!

 もし囲まれてしまったら一方的に攻撃されてしまう。


「もう!!こうなったら容赦しないよ!!」

 私は大きく振りかぶって、ふわふわの魔物を斬りつける。通路に逃げ込んだのは回り込まれないように正面の魔物を一体ずつ確実に倒すためだ。

 しかし、何体もの魔物が牙を向けて襲い掛かってくる圧力に押されて私は少しずつ後ろに下がる。何度も体当たりを剣で受けていたため、剣を持つ手も痺れて力が入らなくなってきた。

「うぅ……何度も剣を振って腕が疲れてきたよ……!」

 ショートソードは剣の中でも相当軽い部類ではあるけど、それでも短時間に何度も振り上げると腕が上がらなくなってくる。

「……っ!」

 魔物の一体が突っ込んできたのを、回避しきれずぶつかってしまう。

 牙には当たらなかったものの、疲労も相まって私は体を揺らしてしまい何とか足に力を入れて耐えるが、剣を落としてしまう。

「うっ……剣が……!きゃっ!?」

 私はしゃがんで剣を取ろうとするのだが、魔物の追撃を受けて後ろに倒れてしまう。

「こ、このままじゃ……!?」

 しかし、気付かなかったけど、私の少し後ろに何か落ちている。

「あれは……!?」

 私は、咄嗟にそれを取り、こちらに飛びこんできた魔物に振った。


 ――グシャッ!


『……グゥ』

 魔物は血を噴き出しながら床に転がり、煙をあげながら消滅した。


 私が手に取ったのは、ショートソードとは違う別の剣だった。


「この剣は何でこんなところに……」

 いや、それを考えてる場合じゃない。まだ魔物は数体残っている。

 私は背中の痛みを抑えながら、立ち上がる。

 腕は筋肉痛で悲鳴を上げ、長時間の戦闘はこれ以上難しいかもしれない。


 ……仕方ない。切り札を使わせてもらおう。


 私は大きく間合いを取り、左手を突き出す。

「そんなもふもふしてたらこの魔法には弱いでしょ!<ファイア>!!」

 私は手のひらから魔法を発動する。放った魔法はもふもふの魔物に一直線に向かいうち一体に着弾した。そして、近くの魔物を巻き込んで一気に燃え上がる。


「うわっ!?思ったよりも炎が大きかった!」

 この魔法の威力自体高くはないのだが、

 もふもふの魔物の毛が予想以上に火に燃え移りやすかったようだ。

 そのまま炎に撒かれて二体の魔物は黒焦げになって煙をあげて消えていった。


「……よし、ここまで減らせば!!」

 私は残った魔物に向かって一気に駆け寄って、手に持つを振り抜いた。


「はぁぁぁ!!」

 ザシュッザシュッとふわふわの魔物を斬っていく感触は気持ち悪いけど、

 なんとか全部倒すことが出来た。


「ふう……何とかなった……」

 でも倒したことで緊張の糸が切れてしまい、その場に座り込む。

 ちょっと後味が悪い。

 いくら魔物でも命を奪う行為はちょっと抵抗がある。

 ましてこんな可愛い生き物と戦うことになるって……。


「うぅ……魔物と戦うのがこんなに辛いなんて……。先輩は凄いなぁ」


 ここ半年くらい街を離れて会えなかった先輩を思い浮かべる。

 あの人は、どんな気持ちで戦ってたんだろう……。


 私に冒険者はまだ早かったのだろうか……とちょっとブルーになりながら周囲を眺めると、丁度最後の魔物が倒れた辺りに何か落ちていた。


「なんだろ、これ……?」

 そこに落ちてたのは一冊の本だった。

 私はその本を開くと、頭の中に知識が流れ込んできた。


「……な、なにこの感覚――?」

 開いた本は空中に浮かび上がり、パラパラとページがめくり上がり読んでもいないのにそのページの中身が私の頭にインプットされていく。


『アイテムを収納する魔法<マジックボックス>』

『入手したアイテムの名前や魔物の名前を知る魔法<ルック>』

『自身の状態を確認する魔法<オープン>』


「頭の中に声が……!? これは魔導書……?」

 だけど、どの魔法も一般に知られる魔法では無かった。

 そして最後に魔導書から声が聞こえてきた。


『霧の塔に挑む勇気あるものに三つの魔法を授ける。

 この魔法を駆使し塔の謎を解き明かし最上階を目指せ』


 ……最上階を目指せ?


「……と言っても、私の目標は5階まで登るだけなんだけど……うーん?」

 悩んででも仕方ないので、私は流れてきた魔法を試すことにした。


「えっと、まずは……こうかな、<ルック>!!」

 私は、今拾った魔導書に対してアイテムの名前を知る魔法を使用する。

 発動方法は簡単、知りたいアイテムに手をかざして魔力を込めるだけだ。

 すると、目の前に半透明のウィンドウが現れてそこにはこう書かれていた。


「うわっ!?凄い、映像魔法みたい……」


【名前:霧の魔導書】

 効果:霧の塔で使用可能な三つの魔法を習得することが出来る。この効果は一度しか使えない。また、他の場所で使用することは出来ない。


「……なるほど、この塔専用の魔法だったんだね」


 ルックはアイテムの効果が分かる魔法らしい。

 それならさっき拾った剣も試してみよう。

 私はその剣を手に取ると、また<ルック>の魔法を使用した。


【名前:ソード+1】

 効果:平均程度のリーチを持つ量産品の剣。基本攻撃力+6


「ショートソードより強いみたいだね……

 ……というか、+1って何?」


 私は更に他の覚えたばかりの魔法を使う。


「<オープン>」

 すると、さっきと同様に私の正面にウィンドウが浮かび上がった。


【名前:サクラ 職業:冒険者見習い】満腹度70/100

 レベル 2 HP 15/30 MP 6/16 攻撃力13(+3) 魔力 13 素早さ 12 防御力6(+5)

 装備:ショートソード(+3) 皮の服(+5)

 所持技能:剣の心得Lv3

 所持魔法:マジックアロー、ファイア、ファーストエイド、

 特殊魔法:霧の魔法(ルック、マジックボックス、オープン)


「おぉ、魔法が増えてる!それにレベルも上がってる!」

 ここに入ったばかりの時はLv1だったのに、今はLv2。

 それに魔法も追加されてる。これは私の能力を見る魔法のようだ。


「これで、少しは強くなったのかな……?

 ……それにしてもMPが随分減ってる気がする」

 私が使用した<ファイア>の魔法の消費MPは4だ。

 最初の私のMPは12だったので、本来は残りMPは8のはずなのに……。


「……もしかして、<ルック>の魔法かな」

 さっき二回使ったため、もし消費MP1ならそれで計算が合う。

 でも、それだと今使用してる魔法の消費MPは0という事になる。


 私は次の魔法を唱える。

「えっと……これはどう使うんだろ?<マジックボックス> 」

 私はとりあえず呟いてみた。

 すると、足元に黒い渦のようなものが出現して、その中に手を入れると何かを掴むことが出来た。そのまま取り出してみると、一枚の紙きれだった。


「何だろうこれ……?」

 私はその紙切れに書かれた文章を読んだ。


『マジックボックスはアイテムを最大20個まで入れて保管することが可能』


「な、なるほど……

 この魔法は拾ったアイテムを保管するための魔法なんだね……」


 それにしても親切な魔法だな。

 説明書まで入れてくれるなんて……。


 私は一旦マジックボックスを閉じて、

 もう一度<オープン>の魔法を使用してMPを確認した。


「今度は減ってないね」

 どうやら<マジックボックス>と<オープン>の消費MPは無いらしい。


「それなら、この魔導書とショートソード、

 あとポーチに入れたアイテムを中に入れておこうか」

 これでマジックボックスの中身は全部で5個になったということだ。


「よし、それじゃあ二階に向かおう!」

 私は再び気合いを入れて、上の階層へ向かう階段へ足を踏み入れた。


 ――現在の状態――

【名前:サクラ 職業:冒険者見習い】満腹度70/100

 レベル 2 HP 15/30 MP 6/16 攻撃力13(+7) 魔力 13 素早さ 12 防御力6(+5)

 装備:ソード+1(+7) 皮の服(+5)

 所持技能:剣の心得Lv3

 所持魔法:マジックアロー、ファイア、ファーストエイド

 特殊魔法:霧の魔法(ルック、マジックボックス、オープン)

 所持アイテム:5/20

【霧の魔導書】【ショートソード】【パン】【回復ポーション】【魔法の霊薬】


 □新魔法【霧の魔法】

【霧の魔法】は霧の塔以外の場所で使用できない。

【霧の魔法】は魔法を封じられていても使用が可能。


 <ルック> 霧の塔限定の魔法。消費MP1

 アイテムの基本的な効果を調べる魔法。敵に使用すると名前と特徴が分かる。

 しかし、効果が隠された<未鑑定>アイテムなどは調べることが出来ない。


 <マジックボックス>霧の塔限定の魔法。消費MP0

 入手したアイテムを異次元の倉庫に入れて保管する魔法。最大数は20個。


 <オープン>霧の塔限定の魔法。消費MP0

 自身の能力と状態を確認する魔法。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る