第4話

「実はこっちにも思い当たる節があってね……」

 今度は異人が身の上話を始めた。彼は気が遠くなるほど遥かな昔から一足飛びに時を超えて、この平安の世の伊豆へやって来たと言う。

 彼が住んでいた世界は、山のように高い建物が乱立し、空中を交差する無数の道を無数の速い車が走る。車は牛にひかれることもなく、車そのものの力で動いた。また中には道を移動するだけではなく、鳥のように空を飛べる乗り物も存在した。人の数も膨大だ。そんな想像も及ばぬ時代でこの異形の男は、かつての文覚と同様に権威を守って戦う武士のような仕事をしていたらしい。しかし大戦争に巻き込まれた彼は任務によって、乗り物を操り空から巨大な火を投下して、敵国の美しい島を一つ消滅させた。

「……酷い話だろ。愚行だ。任務を完了した後に命令を拒否すべきだったと悟った。遅過ぎたが。それで一切合切を捨てて、時空を越え逃亡したのさ。これに乗ってね」

 

 文覚の涙はもう乾いている。不可思議なことに凄惨な話を聞き終わった彼の脳裏に、仏像の釈迦の顔が浮かび上がった。すると微笑している釈迦の表情が瞬時にして嘆きに変わったのを感じた。

「一つ聞いてもいいかな。あんたが雷に打たれて死にたくなった理由だ。本当に罪悪感だけなのか?」

 異人の声は透徹した響きを含み、人知を超越した迫力があった。彼は黒い左手で自らの胸を叩きなおも続けた。

「この心に武器はもう無い。つまり手から武器を捨て、心からも武器を捨てた」

 黒天狗の問いかけに文覚は答えが見つからずに窮している。ただ時間の余裕はもう無かった。巨大な蛍のようなこの乗り物が飛び立つ時が来ていたのだ。

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