第2話

「……此処はいったい何処だ?」

「此処は、あんたを驚嘆させた空を飛ぶ化け物の内部だ」

 意識が戻った僧の問いかけに低い声で答えたのは、一種異様な風態の男であった。不気味に膨らんだ白い衣に、頭部と両掌以外の全身を包まれ、真っ黒な彫の深い顔と硬い手からは重厚な威圧感が漂ってくる。まるで天狗と比喩される波斯国出身者のような雰囲気だ。

 

 鷲鼻が伸びた漆黒の顔に意外過ぎるほど親密な笑みが浮かんだ時、僧は突拍子もない未知の領域に自分が今いることに気付いた。辺りは無味乾燥で空虚な空間だ。僧が暮らす庵よりも簡素で味気なく、それは天井と壁が丸い曲面で一体化した球体の構造に近い。これが空を飛んでいたとは。信じられぬ。そして此処には二人の男以外の物体が何も存在しなかった。象牙色を帯びた狭い室内全体の明暗が、薄らとした雲がゆっくりと棚引く月夜の如く変化していく。僧はこの異界が、次第に偶然ではなく必然の世界のように感じられてきた。

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