黒天狗

大葉奈 京庫

第1話


 暗黒の夜空に雷鳴が轟き、滝のような豪雨が大地を叩きつける中、一人の僧が一心不乱に伊豆の山野を駆け抜けていく。濡れ鼠の態で泥にまみれながらも、慌ただしく走り続けるその足は止まらない。彼は確信できる直感に襲われていたのだ。この閃きは出家する以前、北面の武士であった頃に犯した忌まわしい罪業を誅する絶好の機会だと。だから落雷に打たれ、我が身が砕け散ることを願わずにはおれなかった。

 

 林を疾駆する刹那、天地を揺るがすほどの大音響が突如として湧き起こった。それは上空の稲妻ではなく、前方の闇の奥に出現した急速に膨張する光の咆哮であった。しかもその発光体は蛍のように美しく、輝きの度合いをなお一層強めると、宙を舞い羽ばたきながら風を制御し鬱蒼とした林を揺らせ、水流を吸収した光線を照射し巨大化するかの如く見えた。音と光の圧力は極限にまで達し、僧はあっけなく気絶した

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