あー……疲れた。 サイドB:エピローグ
その場所までどうやって飛んで来たのか、正直良く憶えていない。
ある筈のない四発目を撃った俺は、とにかく限界を超えて疲れ切っていて、どうやら彼女を家まで送り届ける前についに力尽きてしまった。
なんとか人目の無さそうな山中に彼女を傷付けないように墜落同然に着陸したが、そこで意識は完全に途切れてしまった。
俺は夢を見ていた。
死んだ父さんの夢だ。
遠くに赤ん坊の声が聞こえる。
いや、それは俺の声だった。
誰かに抱かれ、俺は声を上げて泣いていた。
***
良くやった。良くやったよ、カンナ。
見てごらん、立派な男の子だ。
可愛い、それに力強い。
ほら見て、尻尾が巻いている。
マキオ……そうだ、この子の名はマキオだ
***
……んだよ、父さん……。
アンタも脳死の安直かよ……。
ってか尾藤マキオって……俺、名前に二つもシッポが入ってんの?
天井が眩しい。
赤ん坊照らすのに照明全開過ぎだろ。
いや、これは違う。
人工の灯りじゃない。
これは、太陽の……朝日の……。
ハッ!!!
俺寝てた⁉︎
どれくらい⁉︎
今何時⁉︎
学校は⁉︎
あ、日曜日だわ……。
俺が目をしばたたかせていると、顔の正面に美しい少女が立った。
ミドリだ。
「お疲れ様でした、オクトーバー。ありがとう」
良かった。お嬢様。無事だったか。
怪我もないみたいだな。肌色タイツが所々、火の粉かなんかで溶けてか穴だらけにはなっているが……。
うーん。ビキニアーマー。穴だらけのタイツ……。
いいっ! いいけど良くないっ!!
「本当にご苦労でした。私たちは怪物を倒し、多くの人々を救うことができました」
だといいんだけど……あの感じだと、少なくない数の方が亡くなってるんじゃないかな……でも、ま、ミドリのお母さんと叔父さんは助けられたような気がする。とりあえずそれは良かった。
「ご褒美に生きた黒毛和牛の仔牛を取り寄せて差し上げたいくらい」
え、なにそれペット?
ってかまさか俺が食うの?
いやいやいやいや無理無理無理無理。
魚の活け作りや踊り食いさえ抵抗あんのに。
生きた仔牛の丸齧りとか、ガッツリ重めの罰ゲームだし。仔牛可哀想だし。テリヤキマックとかにして。セットで。ポテトで。コーラで。
「もう少し休んで行きましょう。私は今日は休みで、予定も特にないですし」
あー……疲れた。
にしても、俺ももう少し俺たちドラゴンや他の幻獣について調べといた方がいいかも知れねえな。
まさか尻尾が頭になってるヒュドラがいたとは……それを俺が予め知ってれば、もう少し他の戦い方もあったわけだし。
でも前に似たようなこと調べようとした時、ネットで検索したらゲームキャラとかばかりがドカドカ出てきて全然参考にならなかったんだよな……。
書籍……を何冊も買うほどお小遣い貰ってねーし。
時間見つけて、図書館にでも行ってみるか……。
「オクトーバー」
はいはいなんだよ、お嬢さん。
「私、あの夜、あなたに出会えて、あなたに助けて貰えて、本当に良かったと思っています。ちゃんとお礼を言えてなかったですね。
オクトーバー。強くて愛しい私の竜よ。
私と出会ってくれて。私の命を助けてくれて。
ありがとう」
彼女はそう言うと一瞬はにかんだような表情をしてから、俺の大きな口にキスをした。
*** 了 ***
ドラゴンライダー・サイドバイサイド 木船田ヒロマル @hiromaru712
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます