主は竜を労った サイドA:エピローグ

 私は、私たちは、帰り道の途中の名前も知らない山の山頂にいた。


 オクトーバーは、信じられない力を発揮して多頭の蛇の怪物を完全に葬った。

 だが、彼自身が払った代償も大きいようだった。


 怪物を退治した後、彼は私の呼び掛けにも答えず、力なく帰り道を飛び続け、その途中で力尽きて、半ば墜落するようにこの場所に着陸した。

 私は死んでしまったのかと心配したが、どうやら疲れ果てて寝てしまったようで、私も彼から降りてその伏せた翼の間に収まると、その逞しい腕に寄りかかって目を閉じた。

 私も彼に負けず劣らず疲れている筈だったが、神経が昂っているのか全く眠くならない。

 今日あったこと。

 母と叔父、怪物との戦い。

 そして勝利した私の竜。


 全く。この竜と出会ってから驚くことばかりだ。

 だが、その全てが私に取って善きことばかり、若しくはこれから善き方向に進むことばかりのように私には感じられた。


 それにしても、あんな怪物が現実に現れるなんて。でも考えてみればこうして竜が当たり前に存在しているんだから、今まで知られていなかっただけで、世界にはもっと他の怪物も実際にいるのかも知れない。

 私はそれらについて余りにも無知だった。

 今回の怪物だって、なんとなくギリシャ神話とかに出て来そうだなくらいのイメージはあるが、正直言って名前すら分からない。ちゃんとした名前があるのかすらも。

 竜の主として、そのライダーとして、もっと勉強しよう。

 インターネット、専門家へのメール、図書館……利用できるものはなんでも利用して、伝説の怪物や幻獣の知識を深めよう。

 それが彼の、オクトーバーの主として自分が果たすべき責任、資格を維持する最低限の条件だ。


 そんなことを考えている内に、どうやら夜が明けて来たようだ。

 眩しい朝日が眼下の街を照らして、同じ方向に長く伸びる幾条もの影を描いた。


 私の竜が身じろぎをして、ぐうう、と喉を鳴らした。


 新しい今日の陽の光の中で、私は彼の翼の間から抜け出して、朝日に照らされ寝ぼけ眼を薄く瞬かせる彼の大きな顔の正面に立った。


「お疲れ様でした、オクトーバー。ありがとう」

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