理解が私の腑に落ちた サイドA:7
解ってしまった。
理解してしまった。
あの人の……叔父の母に向ける眼差し。
顔形も体格も違う。
声も髪型も服の趣味も違う。
けれどあの優しい眼差しは。
母と共にいる時の空気は。
どこか情けないのに、母の前では頼れるパートナーたろうとする……その態度は。
母が何故、叔父を好きになったのか。母が叔父の中に何を見たのか。母の胸に開いた穴が、どんな形だったのか。
解ってしまった。
私の胸に開いた穴も、同じ形だったから。
そして母の胸の穴は、恐らく私より深いのだ。
私は父を亡くして、すぐに次の男に、それも父の血縁に懸想する母を嫌悪していた。恥知らずと感じて蔑んでいた。
だが違うのだ。母には他に選択肢がなかったのだ。叔父という支えがなければ、母は恐らく死んでいた。それも解ってしまった。
そして叔父は、母が叔父の中に兄を……私の父を感じてそれを愛していることを知っている。それでもなおその事をよしとし、母を愛している。
それも解ってしまった。
それらが解ってしまった今、恥ずべきなのは幼稚な駄々を捏ねていた自分だと解ってしまった。
私は泣いた。
『グリーン、ドコカ、痛ムノカ?』
「大丈夫、優しい竜よ。さあ、あいつを倒しましょう。私のことは気にしないで。思い切り戦いなさい」
『聞ケ。我ガ主ヨ。火球ハ三発シカ撃テヌ。残リハ二発。ヤツノ頭ハアト二ツ。外セバ終ワリダ。危険ダガ必中ヲ期シテ、敢エテ近付ク』
「望む所よ。その方が避難する人々の時間稼ぎになるでしょう」
『剣ハ納メテ両手デ手綱ヲ巻ケ。酷ク揺レルゾ』
「心配ご無用。自分の身は、自分で守ります」
『……後悔スルナヨ』
「するもんですか」
『ハハハハハ……』
竜は嗤った。
私は竜が嗤うのを見るのは初めてだった。
私も笑った。愉快な気持ちで、心から笑うのは久しぶりだった。
オクトーバーはガウッ、と一声吠えると翼で空を叩いて更に高く高く高度を上げた。
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