竜は夜空に誘った サイドA:2
屋上にゆっくりと降ろされた私は足に力が入らず、尻餅をついた。
そして絶句して竜を見上げた。
大きい。
勿論竜を見たのは初めてだが、間近に感じる路線バスのような質量感に私の身はすくんだ。
そんな私の様子に構わず彼(彼女?)はアギャアギャと何かを語りかけるように鳴いた。
「ドラ……ゴン?」
私は混乱する頭をなんとか落ち着け、乱れる息を整えて、なんとかそれだけの言葉を絞り出す。
竜はグワッとガチョウの鳴き声のような返事をすると黙り込んだ。不思議とそんなに怖くはない。
くりっとした大きな瞳が私を写し、心配そうに覗き込む。
「私に……死ぬなっておっしゃるの……?」
竜は目を細めてグルルと喉を鳴らした。
「な、何よ。人間のことなんて何も分からない癖に! 死ぬのをやめて、私にどうしろって言うのよ‼︎」
竜は軽く首を傾げるような仕草をしたあと、私にぐいっと顔を近づけて、くいっと首の動きで自分の背中を指し示した。
「乗れって……?」
私は躊躇した。
ちょっと待ってドラゴン?
そんなのいるわけなくない?
いるわけないモノに乗るのなんて危なくない?
「いっ、嫌よ! なんですのあなた‼︎ 今日は私にとって大事な夜ですのよ! 邪魔をなさらないで……きゃあっ⁉︎」
竜は私の頭から上半身をパクッと咥えると、拾った石でも投げるように私を自分の背中にひょいっ、と放り投げた。
「ちょっ、待っ……降ろしなさい! 降ろし……」
竜は私を振り向いて唇の端を持ち上げた。笑ったのかも知れない。
竜は四歩助走を付けて屋上のフェンスを軽々と飛び越えると、夜の街を見下ろす星空へその身を踊らせた。
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