散歩 サイドB:1

 夜風が気持ちいい。


 俺は翼をしならせ、気流を捉えて高度を上げた。


 母さんはダメだというが、ダメの意味が分からない。

 俺たちドラゴン族の本来の姿。

 その力を使って人間どもの社会を破壊してやろうとか、恐怖で支配してやろうってわけじゃない。


 時代は人間を選んだ。

 俺たち神話の種族は殆どが駆逐され、生き残った僅かな者たちもある者は人間の姿に身をやつし、ある者は人間が手出しできないような高山深海に引き篭もって細々と命を繋いでいる。


 その気になれば、空を舞い炎を吹いて、千の軍勢を退ける力がある俺たち。

 そんな強大な力を抑えて、人間社会に溶け込まなければならないストレスの、ほんの少しのはけ口。


 人間に見つからないように、ちょっとの時間ドラゴンになって夜空を思いっきり飛ぶ。


 それすらダメなら、俺はどっかでブチ切れて大暴れしてしまう。


 だからごめん、母さん。


 ちょっとだけ。ちょっとだけドラゴンで飛ばせて。絶ッッッ対にこの姿で人間には関わらな……


 えっ、なにあれ飛び降り⁉︎


 マジかヤベえこうしちゃいられねえっ!!!

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