ドラゴンライダー・サイドバイサイド

木船田ヒロマル

翼は闇夜を切り裂いた サイドA:1

 夜風は不快だった。

 整えた前髪が乱れる。

 薄い夜着が煽られて乱れる。


 腹立たしい。

 けれどそんな忌々しい風も、この世で感じる最期の風だと思うと、仄かに愛しくも感じられた。

 小さな胸に今まで生きた中での良かった思い出が去来する。

 屋上のフェンスの先のコンクリート材の崖っぷちで、立ち止まる足。でも。


 父の死。

 成績の低迷。

 母の再婚話。


 立て続けに訪れたアンコントローラブルな不幸。

 それらから滲み出す生々しい虚しさが、すぅ、と私の背中を押した。


 虚空を歩くことができるかのように、私は歩を進めた。


 ぎゅん、という加速と浮遊感。


 だが、地面は想像より素早く訪れた。

 ふわりと、優しく。

 ごつごつした鱗。

 巨大な翼。

 

 地面では、ない。


 それは一頭の、ドラゴンの背中だった。


 

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