第5話 文豪の巻 森鷗外と夏目漱石

明治の文豪は心が西洋に向いていた。鴎外はドイツ語の聖書を読み、漱石は英語の聖書を読み、荷風はフランス語の聖書を読んだ。


 夏目漱石の小説に『三四郎』と言うのがある。この小説と聖書との関連はよく話題になる。筆者もここで話題にしたい語句がある。それは三四郎が上京の際列車の中で桃を食いながら男と交わす会話の中に出てくる『亡びるね』と言うあの言葉。

 あの『亡びるね』と言う言葉の出所も筆者は聖書と睨んでいる。旧約聖書に『箴言』と言うのがある。その16章18節に次のように書かれている。明治時代の小説なので日本聖書協会・文語訳聖書から引用しよう。


 『驕傲(たかぶり)は滅亡(ほろび)にさきだち 誇る心は傾跌(たふれ)にさきだつ』

 この聖書の言葉の意味する所は、個人にしろ国家にしろ、誇り高ぶる心の先に待ち受けているの滅亡(ほろび)であると言うこと。日本にも『驕(おご)る平家は久しからず』と言う諺がある。

 日露戦争に勝利し有頂天になっている日本人の行く末を見通した漱石の言葉と筆者は考えている。

 日本海海戦の雄東郷平八郎は『勝ッて兜の緒を締めよ』と訓示を垂れている。その東郷も白人至上主義の総本山イギリスに7年間留学した帰国子女。

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