第3話 土佐の万次郎

筆者は数年前、万次郎が若い頃生活していたアメリカ・東海岸・マサチュセッツ州・フェアヘイブン市に10日間滞在したことがある。

 そこ(フェアヘイブン市)のビジタ-センタ-で一冊のペーパ-バック(ソフトカバ-)の本を15ドルで入手した。参考の為表題を記す。


 Celebrating Fairhaven's Bicentennial: 1812-2012

Fairhaven A Lens on History


 フェアヘイブン市の歴史を扱ったペ-パ-バックの本。白い表紙の本。フェアヘイブン市に関係のある6人の人物の写真が表紙を飾っている。その内の1枚が万次郎の写真。インタ-ネットでこの本の表紙を見ることが出来る。


 その本の5章の表題は「フェアヘイブンと日本の開国」。5章はP47~P70。


 5章はこう言う書き出しで始まっている。

 「ハーマン・メルビル(Herman Melville)のあの有名な捕鯨船の船乗りとしての航海は1841年1月3日、捕鯨船アクシュネット号(Acushnet)でここフェアヘイブンを出航した時に始まった。その24日後、5人の日本人の若者が四国の港から漁に出た」。

 以上のような書き出しで始まっている。

 ハーマン・メルビルとはアメリカの作家。代表作に『白鯨』がある。それで筆者も2本のハリウッド映画を基にして話を進めたいと思う。

 1本は1956年の映画『白鯨』。もう一本は2016年の映画『白鯨との闘い』。映画『白鯨』に登場する人物の名前は旧約聖書に登場する人物の名前をそのまま踏襲している。時代設定は1841年。ハーマン・メルビルや万次郎達が出航した年。この映画は興行的には失敗だった。興行的に失敗つまり、儲からなかったと言うこと。

 筆者はこの作品は大変な力作だったと考えている。この映画は重厚な作品。1956年当時、軽い娯楽作品を好んだアメリカ人に受けなかっただけだと思う。

 ジョン・ヒュ-ストン監督の才能と力量を窺い知ることの出来る作品だと筆者は考えている。1841年当時のアメリカの捕鯨産業を知りたい方には参考になる映画だと思う。

 例えば、捕鯨船が出航する際、女性が船乗り一人一人に聖書を手渡している場面があるが、あれは史実に基づいた描写だと思う。「板子一枚下は地獄」はアメリカの捕鯨船も全く一緒だから。

 万次郎がフェアヘイブンで最初に通った小さな学校の教壇上には今でも1841年版の古い大型の聖書が置かれている。当時の子供たちは聖書の一部分を暗記させられたそうだ。

 子供の頃に暗記させられた僅かばかりの聖書の言葉を支えに、当時の人々は人生の荒波を生き抜いたのであろうか。

 万次郎の子孫中濱家には万次郎の恩人ホイットフィ-ルド船長から贈られた聖書が家宝として大切に保管されているそうだ。

 欧米人にとって聖書を否定すると言うことは糸の切れた凧と同じ結果になることを意味するのかも。


 もう一本の映画『白鯨との闘い』について。この映画は史実に基づいた映画。実際にあった人肉食を扱っている。

 人類の歴史を調べれば、人肉食は何処でもあった。太平洋戦争中、日本の軍人・兵隊が各地で行ったことはよく知られている。

 聖書の中にも記述があるので紹介しよう。聖書をお持ちの方はその聖書から確認すると良い。


 1 旧約聖書 申命記 28章53節~57節

 2 旧約聖書 列王記下 6章29節

 3 旧約聖書 エレミヤ書 19章9節

 4 旧約聖書 哀歌 2章20節

 5 旧約聖書 哀歌 4章10節

 6 旧約聖書 エゼキエル書 5章10節


 この映画の中で最初に鯨の群れを見つけた時、映画の主人公一等航海士が大声で叫ぶ“Blows !”と言う英語。これは万次郎が最初に覚えた英語とされている。

 鯨が呼吸している様を表す英語。

 映画の中でマッコウクジラの脳天に丸い穴を開け鯨油の中で最も高価なものとされる脳油をバケツで汲みだす作業、体の小さい万次郎、あの作業では重宝されたことと思う。

 最後に近年発見された万次郎とおぼしき人物と白人男性の二人が写った写真について。

 筆者がフェアヘイブン市のビジタ-センタ-を訪れた時、管理人の方がこの写真に関していろいろ調べてくれた。

 その管理人の名はクリストファー・ジェイ・リチャ-ド(Christopher J. Richard Director of Tourism)となっている。60歳ぐらいの小柄な眼鏡をかけた白人男性。彼は今でもビジタ-センタ-の管理人をやっている。関心のある読者はインタ-ネットで調べることができる。フェアヘイブン市のビジタ-センタ-の情報を記す。


 Visitor's Center Fairhaven MA


 彼の調べた所によると、右側の白人男性の名は捕鯨船の船長で、以下管理人のメモ書きを記す。


 Captain George H. Clark. ship "Henry Kneeland" met Manjiro in Hawaii with Rev. Damon.

Clark rescued crew of Japanese boat. 

以上が管理人が ネット上で探し出してくれたGeorge H. Clark船長の顔写真のコピ-に書いてくれた短い文章。

 このメモ書きによると、万次郎をよく知るデーモン牧師(Rev.Damon)の取り計らいでハワイのホノルルで実現した会見のよう。

 写真右側白人男性の名前はジョ-ジ・H・クラ-ク(George H. Clark)。捕鯨船ヘンリ-・ニ-ランド(ship Henry Kneeland)の船長(あるいは元船長)。この船長も以前日本人の漂流民を救助した経験があるとのこと。

 管理人が探し出してくれたクラ-ク船長の顔写真のコピ-と最近発見された写真とを比べて見ると素人の筆者にも簡単に分かる。二人の写った写真の右側の人物は

George H. Clark その人。

 筆者もインタ-ネットで船長の顔写真を探そうと努力したが、船長の名前と船名は存在したが顔写真は見つけることは出来なかった。

 現代の科学技術を駆使すれば二人の人物を特定するのはそれ程難しい事ではないと思うがどうであろうか。どなたか、写真解析に自信のある方ビジタ-・センタ-で管理人が探し出してくれた Clark 船長の顔写真のコピ-、新たにコピ-をとり差し上げます。

 もしこの二人の写った写真、解明できれば万次郎研究に新たな1ペ-ジを加えることになるかも。

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