第86話 諦め

 23日の放課後、俺が嗣葉に送ったメッセージのタイムリミットが迫る。

 今日で学校は冬休み前の最終日、昼前で授業は終わり、下校を告げるチャイムの音と共に全校生徒は浮かれ気分に突入する。

 一斉にクラスメイトは椅子から立ち上がり、早速同級生と寄り道の相談を始め、ざわざわと談笑をしながら教室を後にしだす。

「悠人、嗣葉ちゃんから連絡は?」

 博也が俺の席に駆け寄って来て、廊下に消えそうな嗣葉を眺めた。

 俺はスマホを取り出してSNSを確認したが、嗣葉は相変わらず俺のメッセージを無視している。

「ダメみたいだ……。やっぱこれってブロックしてんじゃねーの?」

「弱気になってんじゃねーって! こうなりゃ最後の作戦だ!」

 博也は俺を強引に引っ張り、嗣葉の背中を追いかけた。


「早く行けっ」

「いや、いいって!」

 高校の玄関前のロータリーに嗣葉と木下が歩いてバス停に向かう所を博也が俺の背中をグイッっと押して二人の前に押し出した。

 俺が急に目の前に飛び出したから嗣葉はビクッとして立ち止まり、俺と数秒間目を合わせた。けど、嗣葉は木下と目くばせをして無言で俺の横を通り過ぎる。

 きっつ! 滅茶苦茶塩対応じゃねーか嗣葉! 俺ってマジで嫌われてるって!

 今のは効いたわ~、これって罵られるより辛いぞ?

 俺は思わず博也にジト目を浴びせ、余計な事を……と無言で語り掛ける。

 俺の肩を抱き、博也がそっと言った。

「成功したな」

「どこがだよっ!」

 俺は声を荒げてしまって周りの生徒たちに怪訝な顔を向けられた。

「落ち着け、これで嗣葉ちゃんは自問自答のスパイラルに陥ってお前の事が頭から離れなくなる」

「もういいよ、ありがとな博也」

 俺は肩を落として一人、駐輪場に向かった。


 ◇    ◇    ◇


 久々に街に出た。

 今日のバイトは夕方から、昼前に下校となった俺はクリスマスプレゼントを買うために若者が集まるショッピングエリアへと足を延ばしてみた。

 すっげー混んでる、やっぱクリスマスはどこも忙しそうだな。

 聞き飽きたクリスマスソングがあちこちから聞こえ、街中は金と赤と緑に染まっていて目がチカチカしてしまう。人は平日の昼間なのにごった返すほどで小腹を満たそうと飲食店に入るにも並ぶ始末。

 腹ごしらえはコンビニで済ますか……。

 激混み回避のため、コンビニでサンドイッチとお茶を買って近くのベンチに腰掛ける。

 サンドイッチをかじっていると沢山のカップルが目の前を通り過ぎ、俺にイチャイチャを見せつけている訳では無いのだろうが何となく鬱陶しい。

「俺だって紗枝ちゃんと……」

 嗣葉との関係は終わったし今後は霧島さんとの関係を深めないと。

 目の前を金髪の娘が通り過ぎ、俺は思わず目で追った。

 嗣葉……なわけないよな。嗣葉はもっと可愛いし。てか、ここにいる誰より可愛いって!

 いやいや、何考えてんだ俺は! 霧島さんだってとってもキュートだし、嗣葉より胸おっきいし……優しいし……。

 ため息が出る、今日は霧島さんへのプレゼントを買いに来たってのに……。

 俺はサンドイッチを一気に口に押し込んでお茶で流し込み、立ち上がると近場の雑貨屋に飛び込んだ。


 ウロウロ、ウロウロ、そんな言葉がぴったりくるほど俺は街中を歩きまわていた。

 何を買っていいのか全く分からない。女の子は何が欲しいのか、何を貰ったら喜ぶのか? アクセサリー? 良さげなのは学生の俺には高くてとても買えないし、安物をあげたらガッカリされるのか? 考えれば考えるほどパニックを起こしそうになり、時間切れも迫って来て焦って来る。だけど適当な買い物なんてしたくない、どうしたらいいんだ? なんか気分悪くなって来たぞ……。

 落ち着け、考えろ。

 俺は一旦ショッピングを中止して外の空気を吸いに行く。

『お返しは何がいいかな~? 来月はクリスマスだし、アクセサリーとか?』

 不意に嗣葉が言ったセリフが頭の中で木霊する。

「そっか……、一緒に買いに来ればいいんだ……。そうしよう」

 嗣葉の誕生日の日の事を思い出した、二人で廻った雑貨屋で楽しく話して買い物をした日の事を。

「ありがとな、嗣葉……」

 君とはもう来れないけど、あの日の経験が俺を救ってくれたんだ。

「そろそろ行かないと、だな……」

 俺は今日もクリスマス商戦で忙しくなるであろうワンアップに向けて歩き出した。

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