第83話 ダメージ

「『さよなら』か……」

 だよな、俺って最低な奴だ。

 俺は心のどこかで真実を打ち明けても嗣葉なら許してくれるって思い込んでいたんだ。

 どうすれば良かったんだろう……?

 考えてもしょうがないのは分かってる、結果は既に出ていて、それは最悪な状況。

 これって終わったって事だよな……。

 幼馴染との長年の付き合いは今日をもって終わり、これからは顔見知りの隣人となる。

 俺は自問自答を繰り返しながら自宅に帰り、重い足取りで二階に上がる。

「悠人、お帰り。ご飯は?」

 母さんが俺の背中に声を掛け、俺は「要らない」と素っ気なく返す。

 が、その直後、耳にちぎれそうな激痛が発し、俺は居間に連行される。

「なに暗い顔して「要らない」とか言ってる訳? アナタに母親の作った手料理を拒否する権利は無いわよっ!」

 無理やり俺は食卓に座らされ、母さんは怒りを籠めて食器を俺の目の前にコンッと強く置く。

「何があったの?」

 母さんも食卓に座り、久々に親子で向かい合う晩御飯。

「…………嗣葉と喧嘩した」

「また? ほんっとにアンタ達は毎回毎回……」

 母さんはフウとため息を付き、「仲良しだね?」と笑う。

「仲良しじゃないし、嗣葉とはもう修復出来ないから」

 俺はそれ以上話したく無くて、飯を一気に口に運ぶ。

「ふ~ん?」

 母さんはニヤニヤしながら俺を見つめた。

「ホントだし!」

「へぇ? こないだの二股がバレて別れ話になっちゃったの?」

 後頭部を思いっ切り殴られたような気がして、俺は母さんを睨んだ。

「うるさいからっ! ちょっと黙っててくれる?」

「はいはい……」

 母さんはまだニヤついている。

 腹立つ腹立つ! 知ったようなこと言って! 今回ばかりはホントにホント、正真正銘の決裂だってのっ!

 イライラがつのり、母さんに父さんとの夫婦仲を突っ込みたくなったが、言ってしまえば母さんもいい気持ちにはならないだろうし自重する。

 俺の目の前に居るこの人は何時も一人で仕事人間の父さんを待っている、仕事中毒の家庭を顧みない男をどう思ってるんだ?

「ごちそうさま」

 短時間で食事を済ませ、席を立つ俺に母さんが言った。

「悠人。嗣葉ちゃんの件、あなたが悪いんならしっかり謝ること! いい?」

「どうやって? 激ギレして話も聞いてくれないのに、無理だって……」

 背中を向けたままそう言い放ち、俺は居間を出て自室に向かった。


 ◇    ◇    ◇


 天井を見てもつまらないのは知っている、だけど俺はベッドに寝転んだままずっと天井を眺めていた。

 ひと月ガン無視されて、謝ろうとしたらキレられて泣かれて……『大っ嫌い』って宣言されてこれ以上俺に何が出来る?

 大体俺と嗣葉は付き合ってた訳じゃ無いし、嗣葉は俺を好きだって二回言ったけど、二回とも冗談みたいな感じで流されてコクられたって訳じゃ無い。

 だけど嗣葉は俺を浮気者認定している……。

 意味分かんねーっ!

 嗣葉の反応って、まるで俺の彼女みたいな反応だよな?

 俺も嗣葉の事は友達以上の仲良しだって自負はある、幼馴染で記憶が芽生えた時から嗣葉は隣に居て兄弟みたいに過ごして来た……。

 嗣葉は俺の隣に居て当たり前、そんな感覚がしてたけど、いつか嗣葉にも彼氏が出来て、そいつと結婚して家を出て行くのだろう。

 そう考えた途端、俺の心の中が空虚感で苦しくなる。

「あーっ! 止め止めっ!」

 俺は考えるのを放棄してスマホのゲームアプリを起動する。

 こんな時はスポーツカー美少女しかない! 二次元は裏切らないし文句も言わないからな!

 最近ご無沙汰だったな? 気分が重くて数日間ログインすらしてなっかった。

『この浮気者~っ! 他の娘にチューニングしてたでしょ! ぶーっ!』

 ログイン早々、育成中の美少女に言われた言葉が浮気者って勘弁してくれっ!

 スマホを放り投げ、枕を抱えた俺は、脳裏に浮かんだ嗣葉の顔をかき消すように枕に頭を擦りつけた。

 駄目だ、今日は俺の頭の中に嗣葉が住み込んでいるみたいに事あるごとに思い出してしまう。

 これって大ダメージだよな……?

 HPゲージはゼロに近い赤色でMPは枯渇、毒に当たっている状態の俺は、多分一晩寝てもゲージは殆ど回復しないだろう。

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