第47話 肩透かし

 夏休みが終わってしまった。

 俺、結局バイトしてゲームしてただけだな……。久々の登校は体が宙に浮いているみたいでリアル感がまるで無い。

 嗣葉と二人で教室に入ると懐かしいが見慣れた光景に違和感を覚えた、何だかこの状況が永遠に続きそうで怖くなる、だけど現実はあと二年と半年余りでこの生活は幕を下ろし、次のステップに進む事となる。

 俺って大学行くのかな? 一応進学希望って事にしているが、みんなが行くから真似しているだけに過ぎない。

「よお、悠人!」

 先に来ていた博也が俺に声を掛けて近づいて来た。彼とも久々の再会、友人だけど結局プール以来夏休みに顔を合わせる事も無く、SNSで数回下らないメッセージを交わし合っただけだ。

「久しぶりだな博也、生きてたか?」

「それはこっちのセリフだよ、結局悠人は引き籠ってゲームしてただけだろ?」

「そういう博也は何をしてたんだよ?」

 聞いた途端、博也はニヤニヤしながら眼鏡を人差し指でちょいと触り、「あの二人の水着画像、夏休み中ずっと眺めてた」と恥じらいも無く答えた。

 博也は木下と談笑する嗣葉を透視するような目付きで眺め、「あの姿、忘れられん! 制服の下があんな事になってるとは……生で拝めた俺は幸せ者だ」と言って俺と握手する。

 俺と博也が立ち話をしていると嗣葉がこちらをチラッと眺め、ヅカヅカと接近してきたので俺は嫌な予感がして反射的に後ずさりしてしまった。

「二ノ宮! 私の水着画像拡散禁止だからね? 分かってる?」

 嗣葉が小声で博也に忠告した。

「分かってるって! 嗣葉ちゃんのお願い、忘れる訳ないだろ? あれは俺だけのお宝画像なんだから」

「やっぱり撮らせるんじゃ無かった、消しなさいよ画像っ!」

「そんな勿体ない事出来る訳無いだろ? 言っとくけど嗣葉ちゃんの画像、ネットにアップロードしたらきっと大反響だよ! きっと天国過ぎるの超えるって!」

「やめてよ!」

 確かに嗣葉が寄越した水着画像は最高に可愛らしかった、嗣葉が本気で自分を動画で売りに出せば相当な閲覧数を稼げるのは間違い無い。本人も自分が超絶美少女なのは自覚しているだろう、だけど嗣葉はアイドルみたいになりたいって気は更々無いようだ。

「冗談だって! 俺が嗣葉ちゃんにそんなことする訳無いだろ?」

 胸に手を当てて小さくため息を付いた嗣葉は安堵して女子たちの輪に戻って行った。

 今日は学校の都合で午前で授業は終了、休みボケの体にはありがたい。だけど夕方からのバイトまで時間が空きすぎる、どこかで時間を潰すか……はたまた家に一回帰るか……どちらにしろ面倒なことには変わりない。

 一時間目は講堂に集合、生徒総出で校長先生の有り難いお言葉を聞かなければならず、目を開けていられる自信が無い。

「そろそろ行こうぜ、博也」

 集合時間が迫り、生徒は大きな人の流れを作りながら講堂へと向かった。


 ◇    ◆    ◇


「嗣葉、帰り飯行かね?」

 ダルい半日が終わり、俺は教室で嗣葉を飯に誘っていた。

「えっ? 何で今日言うかなぁ? 今日は生徒会のミーティングがあるからダメだよ」

「は? 初日から? 大変だな……」

「文化祭が近いし、仕方ないよ」

「大丈夫なのか……? その……笹崎先輩」

「あの一件からは何も……多分、もう大丈夫だから」

「そっか……」

どーすっかな……? 食い物の話をすれば嗣葉は必ず付いてくると思ってたから肩透かしを食らう。

「浮かない顔ですなぁ? 悠はそんなに私とお昼したかったのかな?」

「んな訳ねーだろ! 嗣葉が居ないと静かで快適だし好都合だよ」

「んふ〜っ! 強がっちゃって!」

嗣葉は嬉しそうに俺の背中をバジッと叩いた。

「はいはい、そういう事にしといてやるよ」

俺は後ろ手に手を振って嗣葉に別れを告げた。

しょうがない、博也を誘うか? 俺がSNSでメッセージを送ると博也から直ぐに返信があった。

『今日は無理、ちょっと街に用事があってな』

用事? 街に? アイツが? 珍しい事もあるもんだな……。

俺はどこで飯を食おうか考えつつ校舎の階段を降り、駐輪場に向かった。

真っ昼間の炎天下、自転車のサドルが熱い。もうすぐ9月だが夏はまだまだ終わらないらしい。

俺はゆっくりと自転車を漕ぎ、何となく頭に浮かんだあの場所へハンドルを切った。

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