第46話 お宝画像
「えっ!?」
博也は固まった。円卓が静まり返り、彼に三人の視線が集中する。
黙りこくった博也は眼球だけを左右に振り、振り子時計のように霧島さんと嗣葉を交互に見ている。
「そ、そんな事答えられる訳無いだろ……、だって嗣葉ちゃんは顔面アイドル以上だし体はエロいし、霧島さんはロリっぽくって巨乳……どっちとも付き合いたい……てか二股かけて――」
おいおい、口にて出るって博也……。
「へぇ? やっぱり二ノ宮って私たちのことエロい目でしか見てなかったんだ……」
テーブルに頬杖をついた嗣葉が眉を上げて博也を眺めた。
嗣葉と霧島さんは博也に最大限のジト目を浴びせ、二人とも椅子を動かして少し離れる。
「えっ? ちょ、冗談だって! 二人とも可愛すぎて選べないって! なあ悠人」
俺に振るなよ!
俺は乾いた笑い声で誤魔化し、グラスを手に取り立ち上がる。
「ちょっと! どこ行くのよ?」
「ドリンクバー行くけど嗣葉も飲むか? みんなのもついでに持って来てやるよ」
「じぁあ、オレンジじゅっちゅ」
幼女のような口調で嗣葉がグラスを差し出した。話を逸らす事に成功した俺は少し時間を掛けてドリンクのおかわりを汲みに行く。
しかし博也、余計な事言いやがって! 答え辛い質問すんなよな。でも、あの質問の正解って何だ? 安全策なら嗣葉と付き合いたいって言ったほうが彼女の気分は損ねないが、変に誤解されたくないし……誤解されたくないって言ったら霧島さんもそうだし……ここの解答欄は空欄が一番、テーブルに戻ったら食後の行動を提案して質問を無かったことにしないとな。
◆ ◆ ◇
「水の遊園地はあっちだって!」
食事を終えた四人は俺の提案した『水の遊園地』エリアに向かう事となり、スマホでリゾート内の地図を調べていた嗣葉が場所を腕で指し示した。
「行こう? ミナ君」
霧島さんが俺の左手を掴んだのと同時に嗣葉が俺の右手を掴み、体がつんのめる。俺達はまるで小学生の組体操みたいに両手をピンと広げて見つめ合った。
いや、見つめ合ってはいなかった。嗣葉と霧島さんは一瞬俺と視線を合わせると二人で睨み合う。
えっ? 何この緊張感……。危険を悟った俺は掴まれた両手を離そうと手を引っ込めようとした、だけど二人は手のひらにグッと力を籠めて離さない。
手のひらに冷や汗が滲み、汗がポタポタと地面に落ちる錯覚を起こした時、博也が嗣葉と霧島さんの手を握った。
「感激~っ! 美少女二人と同時に手ぇ繋いだぞーっ!」
助かった、博也がアホで良かった。
「クラスの皆に自慢してやるっ! 景高のアイドル、嗣葉ちゃんの体触ったって!」
「ちょっ! 変な言い方しないでくれる? クラスメイトに誤解されるじゃないのっ!」
嗣葉は焦って俺から手を離して博也に掴まれた手を抜きにかかる。
「離しなさいよ二ノ宮!」
「あと10秒だけ!」
霧島さんの手を離した博也は嗣葉の手を両手で掴む。
「あーっ、もうっ! 10、9、8、ゼロ!」
カウントダウンを強引に終わらせて嗣葉が博也の手を振りほどき、掴まれていた手のひらを握ったり開いたりして手首を振った。
「手の跡着いてるし! 二ノ宮! 女の子の手は優しく握らないとダメなんだから!」
「あっ……そうか。嗣葉様、私がご案内致します」
博也が嗣葉に深々と一礼して右手を伸ばす。
「ご案内要らないから」
嗣葉は博也の前を通り過ぎ、スタスタと歩いて行った。
「ちょっと待ってよ〜。ねぇ、嗣葉ちゃーん!」
駆け寄る博也の影に嗣葉が顔を顰めて走り出す。
「ちょ、怖いからついて来ないでよ!」
博也は雄叫びを上げ、嗣葉は悲鳴を上げて遠くに駈けて行く。
それを見た霧島さんがクスクス笑って俺と視線を交わした。彼女とはまだ手を繋いだまま、離すタイミングを失った俺は暫くの間、手を握り続けた。
そんな厄介で難解なやり取りを夕方まで続け、四人は冗談を言いながら表面上はハシャギまわった。
◇ ◇ ◇
「疲れたーっ!」
一日中プールで遊び倒した俺は帰宅した途端、自室に一直線に向かいベッドにうつ伏せに飛び込んだ。
「ほんと、疲れちゃった!」
ベッドが沈んだ。
「はぁ? 何で嗣葉が居んだよ!」
「いーじゃん別に! それよりさ、写真いっぱい撮ったから観ようよ」
まったく気が付かなかった、大体嗣葉は俺ん家に入るのが自然過ぎんだよ!
「後にしてくれ! 俺はもう寝るっ!」
「ねぇ、これ観てよ」
ベッドに腰掛けていた嗣葉が体をひねって俺に光る画面を見せつける。
画面には笑顔弾ける嗣葉の水着姿、スタイルの良い痩せた体にアンバランスな張りのある胸が眩しい。顔は言うまでもなくアイドル以上に可愛いくて濡れた髪の毛先が遊んでいるのがちょっと幼くもある……。
「ふ〜ん……」
俺は何とコメントしていいのか分からなくて言葉を濁す。
「何その反応……感想は?」
「は? 感想……⁉ まぁ、上手く撮れてるんじゃないか?」
「そうじゃなくて! この私、どうよって聞いてんのっ!」
「はぁ? どうって……」
俺が写真を眺めていると嗣葉は反応が待ちきれないのかグイグイ俺に迫って来る。
「……今まで観た嗣葉の写真の中で一番可愛い……かな?」
言わせんなよっ! 言ったそばから自分の顔が熱くなるのを感じる。
ニマーッと笑顔を見せた嗣葉は寝転ぶ俺に体を寄せる。
「でしょ? だって私も可愛く撮れてるって思ったもん! ねぇ悠……あげよっか? この写真」
俺の背中をポンポン叩いて浮かれた嗣葉が言う。
「あ? 要らねーし!」
俺は興味ないオーラを全面に出して枕を抱える。
「はぁ? アンタ、このお宝画像が要らないっての? もう! こうなったら……」
俺の携帯に連続で通知音が鳴り響く。
嗣葉はスマホの画面を赤いマニュキュアの付いた細い指を素早く動かして俺に画像を送るのを止めない。
「ちょ! 待て待てっ! 俺のスマホ、空き容量少ないんだから」
「そんなの知らないわよ! アンタの下らない育成ゲーム削除すればいいじゃない!」
嗣葉は気が済むまで俺にプールの画像を送り付けるとベッドから立ち上がって「それ観て堪能しなさい!」と上機嫌で部屋を出て行った。
「やっと静かになった……」
俺は何となくスマホを手に取って嗣葉が送り付けて来た画像を確認する。
「やば、可愛い……」
思わず声が出た、嗣葉や霧島さんの水着姿に胸の奥が痛くなる感覚を覚える。
何だこれ? 心地良い痛みが止まらない。俺はその後、時間を忘れて画像を眺め続けた。
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