第43話 売りのアトラクション

 ウォータースライダーの麓に着いた俺たち四人は案内看板を取り囲んでいた。非常階段の如く天まで続く青くて長い鉄の階段は見ているだけでも足が疲れそうなのは言うまでもない。

 嗣葉が階段の入り口で顎に指を当て、体を前のめりにして看板を見入って首を傾げた。

「さてさて、どうすればいいのかな?」

 濡れた金色のポニーテールを揺らして横目で俺と目を合わせる嗣葉。

「このチケットだと一日一回しか乗れないんだね……」

 霧島さんが看板の注意事項を指差した。

「えーっ? セコくない? 二回目以降は三千円って高すぎだよ!」

 嗣葉が頬を膨らませて俺を睨む。

 いや、嗣葉さん……何で俺に文句言うのかな?

「確かに高いな……。でも嗣葉、そんな何回も乗らなくてもよくないか?」

「うーん、それはそうだけど……」

「おいおい! これも二人乗りあるみたいだぜ!」

 博也が女子たちをチラチラ見てにやける。

「いや、今回はパス。どさくさ紛れに変なことされそうだし」

 嗣葉は腕を組み、俺と博也にジト目を浴びせた。

 あれは事故だろ? 嗣葉がさっき勝手に俺たちに下乳見せて来たんじゃないかよ! 健全な男子高校生にあんな刺激の強い物見せやがって! どっちかって言うと嗣葉が痴女って感じじゃないか!

「取り敢えず入ろっか?」

 ゲートの係員にチケットの腕輪を見せると腕輪の一部をもぎ取られた。嗣葉が上機嫌で先頭を歩き階段を上り始めたのでおれ達も後に続く。

 高校の四階にたどり着くより長そうな階段を上っていると段々足が重くなって来る。俺の前を歩いていた博也の足取りが重くなり、更に前を行く霧島さんの背中が遠くなった。

 だけど博也は急に俯きながら静かに笑いだし、俺は意味が分からず彼に怪訝な顔を向けた。

「な、なんだよ急に……」

 博也はニンマリしながらおれに耳打ちをしてきた。

「クックックッ、疲れた足に感謝だな悠人! 前を見てみろ!」

「前……?」

 5段ほど先の階段を上っている霧島さんのビキニパンツが俺たちの顔の高さで歩く度にフリフリとリズムを刻み、小気味良く揺れていて俺は魂を抜かれたように数秒間見つめてから我に返った。

「バ、バカな奴だな、見るなって!」

 霧島さんに気付かれないように俺は博也に小声で言った。

「バカはお前だろ? こんな場面は二度と無いんだからしっかり拝ませて貰わないと美尻な彼女に失礼じゃないか!」

 コソコソ話す俺たちに霧島さんが気が付いて振り向いた。

「もうちょっとだから頑張ろう?」

 無邪気な笑顔を見せる彼女に俺は罪の意識を感じた。目の前にはスタイル抜群な美少女が二人も居て、しかもその二人は友達で俺に心を許してくれる、一緒に居るだけでも羨ましがられることは必至のこの状況にも関わらず、俺は彼女たちに邪な感情と視線を送ってしまっている。

 ウォータースライダーの天辺に着くと客は一人も居なかった、俺たちに気づいた女性スタッフがでっかい浮き輪をスタート位置にセットして嗣葉に乗るように促すと、嗣葉は「いってきま〜すっ!」と元気に叫んで浮き輪の穴にお尻を入れて座った。

 スタッフがカウントダウンを初め、「ゼロ!」と言った瞬間、嗣葉は水音と共にトンネルに消えた。

 嗣葉の悲鳴がトンネルから響き、霧島さんが若干たじろいだ。

「えっ……? 怖そう……」

 急に不安げな表情に変わった霧島さんはスタート位置から後ずさる。

 博也が「乗らないの?」と霧島さんに聞いた。

「やっぱりいいかな……私、高い所苦手だし……」

「高さなんか分からないって! せっかく上って来たんだからやろうよ!」

「二ノ宮君、先に行っていいよ」

「そう? じゃ、先に行くから。悠人、霧島さんのこと任せたぞ」

 博也もカウントダウンされてウォータースライダーのトンネルに消え、俺と霧島さんはスタート地点に取り残される形となってしまった。

 戸惑う霧島さんに女性スタッフが声を掛ける。

「二人乗りもありますからどうですか? 彼氏さんと一緒なら怖さ半減ですよ」

「えっ? でも……」

 霧島さんが俺をチラチラ上目遣いで眺めた。

「せっかくだから乗ってみない?」

 俺は霧島さんに手を差し伸べた。

「……う、うん」

 少し戸惑いながら霧島さんが俺の手のひらの上に手を添える。

 スタッフが笑顔で浮き輪を二人用に交換して俺たちに着座を促す。

「ミナ君、前乗ってくれる?」

 不安そうな顔で首を傾げた彼女に、俺は「いいよ」と答えて浮き輪に先に座って振り返る。

 霧島さんが俺の後ろに座ってカウントダウンが始まった。

「3・2・1」

 霧島さんは俺の腰に両腕を巻き付け、スタッフの掛け声に合わせて俺を徐々に締め付ける。

 背中に彼女の大きな胸がムギュリと当たり、潰れた胸が張り付く感覚がした。

 うわっ! 凄っ! 柔らかいっ!

 背中がとろけそうな感覚に陥った時、俺たちはトンネルに落下していた。

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