第41話 ハプニング

 俺と嗣葉と霧島さんの三人は博也に突き飛ばされて流れるプールに落下した。

 水中でバラバラになった三人が水中でもがく。水面に上がろうと焦る俺の目の前に嗣葉の赤いビキニの胸元が現れ、俺は水中なのに驚いて息を吐き出してしまった。

 嗣葉のビキニがプールに落ちた勢いでズレていて、まんまるな下乳が思いっきり見えていたから……。彼女の胸の先端がかろうじて水着を押さえ込み、脱げてしまうのを寸前で防いでいて俺はその状況を水中ながらガン見してしまった。

 って、息できねーっ! 俺は水中で足をバタつかせ、一気に水面に浮上した。

「プハッ!」

 思いっ切り息を吸い込み、水面を叩く音が聞こえたが俺の目の前はベージュに霞んでいた。

 焦った俺は目を擦ろうと顔に手を当てる。

「何だこれっ!」

 顔に張り付いていた濡れた何かをはぎ取り手元を見ると紺とベージュの布切れを握り締めている自分に気付く。

「えっ⁉」

 ビキニの上を握り締めていた俺は一瞬意味が分からず、手首を返して表裏を確認する。

「や、やだっ! 水着がっ!」

 霧島さんが水面から顔を出して声を上ずらせた。

「いっ⁉ これってもしかして……」

「ミ、ミナ君返してっ!」

 霧島さんはプールの縁に片手で掴まり、もう片方の腕で隠しきれない大きな胸を水中で押さえていた。

 嗣葉は陸に上がり、赤いビキニパンツからポタポタ水を滴らせて博也を睨んだ。

「もう! いきなり何するワケ?」

「げっ‼ 嗣葉ちゃん……」

 博也は目を真ん丸にして嗣葉のビキニからはみ出た下乳をガン見して固まっている。

 俺は嗣葉に叫んだ。

「嗣葉っ! 胸! 胸っ!」

「えっ?」

 嗣葉は自分の置かれた状況を理解するまでに数秒間沈黙したのち胸を押さえてしゃがみ込んだ。

「み、見ないでっ!」

 いや……見ないでって言われても、もう充分拝ませてもらったんだけど。

「は、早くっ! ミナ君ってばっ!」

 少し怒気の籠った声を出し、霧島さんが俺を呼ぶ。

「ちょっと待ってて!」

 水流に逆らい、手足を回転させて上流に居る霧島さんに水着を届けようとしたが、流れが早くて届けられない。

「霧島さん! そっちに行くのは無理だからこっちに来てくれないか?」

「えっ? もう!」

 彼女は片手でプールの縁を伝い、ジリジリと俺に近づいて来る。

「あっ!」

 手を滑らせた霧島さんが水流に流され、胸を押さえながら片腕で泳いで俺の首にしがみ付いて来た。

 肌と肌が触れ合い、霧島さんのつるんとした肌触りに俺は体をビクッとさせてしまった。だけど彼女はそんな事など気にしていないのか間髪入れずに俺に聞いた。

「水着、水着は?」

 彼女は焦っていたが、ここは流れが速い。俺は霧島さんに「取り敢えず足が付くところまで移動しよう?」と提案する。

「え? う、うん……」

 少し泳いで俺たちは浅瀬に到着し、霧島さんが俺をチラ見する。

「ミナ君、水着付けてくれない?」

「は、い?」

「だって私、手が離せないもん!」

「う、うん。分かった」

 霧島さんは水中で俺に裸の背中を向けて胸を押さえている。

「こうかな?」

 俺は彼女の背中から手を廻して水着を当てがう。

「あ、あれ? 逆さまだよミナ君」

「ご、ごめん!」

 俺は慌てて水中で水着を持ち替える。その時、俺の手に柔らかい何かが当たった……。いや、何かは直ぐに分かったけど霧島さんは黙ったまま俯き、一気に耳を真っ赤に染める。

 彼女は水中でゴソゴソ手を動かして、赤らめた顔を俺に向けた。

「背中、結んで欲しいな……」

 そう言って彼女は再び前を向いて俯き、濡れた黒髪のうなじを意図せず見せた。

 俺はビキニの紐をリボン結びしながら彼女に詫びた。

「ごめん、霧島さん……わざとじゃ無いんだ……」

 ピクンと頭を動かした霧島さんは振り返って「何のこと?」と微笑んだ。

 彼女は無かった事にしてくれたみたいで俺はそれ以上何も言えなかった。

 霧島さんは綺麗なクロールで泳いで陸に上がり、嗣葉と何やら言葉を交わした。

 俺、霧島さんのイケナイ所触ったよな?

 感触が手に残っている、霧島さんの柔らかな胸元と多分その先端。

 悶々と湧き上がる邪な感情を抑えるように俺は水中に体を沈めた。

 落ち着け落ち着け……霧島さんも『何のこと?』って言ってたし、俺の思い違いかもしれないし……。

 俺はドキドキが収まらず、暫くの間水中に身を隠した。

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