第40話 救出と抱擁

「二人とも、超〜可愛いじゃん! 俺たちと遊ばない?」

 手首に青いファションタトゥーを入れた若い男が赤いビキニの娘の腕を掴んだ。

「ちょっと触らないでよっ! 私たち急いでるんだから邪魔しないでって!」

 は? 嗣葉の声? 俺は四人の男に囲まれた女の子二人に近づいた。

「そんなこと言わないでさぁ、急いでるなら帰りに送ってやるから! なぁ、いいだろ?」

 タトゥーの男の隣で金髪ロン毛男が嗣葉の髪の毛を触る。

めてって!」

 嗣葉が声を張り、そいつの手を弾いた。隣では霧島さんが小さくなって俯いていて今にも泣き出しそうだ。

 あっ……明らかにヤバそうだ、殆どチンピラじゃないか。あんな中に割って入ったらただじゃ済まなそうけど……ここは繁華街じゃない、家族連れで賑わうリゾート施設内なら奴らの方がアウェイだろ?

 俺はさっき防水ケースを買った店でアロハシャツの店員に「あそこで何か揉めてるみたいなんで人呼んで貰えますか?」と伝えて嗣葉たちの所に戻った。

「あれ? 居ない……って、あそこかよ!」

 数十メートル先で男たちに手首を掴まれ抵抗する嗣葉と霧島さんの姿に怒りのスイッチが入った俺の攻撃コンボが炸裂する。

「うおおおおっ!」

 俺はプールサイドで嗣葉を引っ張るタトゥーの男に肩で体当たりをかましてプールに落とし、すかさず霧島さんを掴む男の肘を下から蹴り上げて手が離れた瞬間、男に抱き着いた。

「お前も落ちろっ!」

 俺もろとも男をプールに引き倒し、水面に大きな水柱が立つ。

「何だてめぇ! 死にてーのか!」

 水面に顔を出した俺に残りの二人がドスの効いた声を浴びせる。

「二人とも逃げろっ!」

「悠⁉」

 目を見開いた嗣葉が霧島さんの手を掴んで走り出した。

「誰かーっ! 痴漢です! 早く来てください!」

 俺は水中から顔を出して大声で叫んだ!

「うるせーぞガキが!」

 泳いで来た金髪ロン毛男に一発顔面を殴られ、俺は眩暈を起こしそうになった。だけどここは水中、水の抵抗でパワーは半減、痛いけどダメージはほとんど無い。

 回りの客からいくつもの悲鳴が上がり、従業員が駆けて来る。

「やべーぞ! 逃げろっ!」

 男たちは蜘蛛の子を散らすように四方に散った。

 俺はどうすっかな? 先に手を出したのはこっちだし……。

 大きく息を吸い込み、深く潜って俺はその場から離脱した。


 ◆   ◇   ◆


 入り江の左の大きなヤシの木の下……そこでみんなは俺を待っているらしい。

 俺は流れるプールの上に掛けられた木製に見せかけたアーチ橋を渡り合流地点に向かっていた。

「ん? あれか?」

 遠くのヤシの木の下にビキニの娘二人と男が一人、大きく手を振っているのが見える。

 赤と紺のビキニ、遠目でも分かるスタイルの良さ、間違いない。俺が早足でヤシの木に向かうと向こうから嗣葉と霧島さんが笑顔で駆け寄って来る。

「ゆ~う~っ!」

「ミナく~ん!」

 二人は速度を上げて俺に接近して来て顔がはっきり見えるようになると何故か悲しそうな顔で俺に両脇から抱き着いた。

「うわっ! なな、何っ?」

「殴られたの悠⁉ 痛くない?」

 嗣葉が顔を寄せる。

「ミナ君、顔腫れてるよ⁉」

 二人は俺の腕にくっ付いて心配そうに顔を覗く。

 うっ! む、胸! 当たってるって!

 両腕が柔らかな双丘に挟まれている、二人の生温かい体温がスベスベな素肌から伝わり俺は逃げるように後ずさって二人から距離を取った。

「ちょっと見せて!」

 嗣葉が俺の頬を優しく撫で「痛そう……」と眉を下げる。

 霧島さんも心配そうに俺の顔に顔を寄せ瞳を潤ませる。

「ミナ君……ありがとう」

 霧島さんがいきなり俺を前からギュッと抱き締めた。

 えっ……⁉ 彼女の大きな胸が俺の胸に挟まれてグニッと潰れている、圧迫された双丘は逃げ場を失ったかのように上側に盛り上がり、俺の顔に迫ってくる程の迫力だ。

「ちょちょっ! 私だってお礼言いたいのに!」

 困惑したような表情を浮かべた嗣葉は離れない霧島さんの後ろで振り子のように左右に動き、様子を伺っている。

「あーっ、もう!」

 嗣葉は俺の背中に飛び付いて首に腕を廻して頬付けをすると「カッコ良かったよ、悠……」と囁いた。

 背中に嗣葉の胸が押し付けられ肌が密着する、俺と嗣葉の肌に付いていた水滴が二人の肌を溶け合わせるかのように張り合わせ、背中が得も言われぬ感覚で腰が抜けそうだ。

「だ、だ、大丈夫だから!」

「ホントに?」

霧島さんが背伸びをして俺に聞き返す。

ちょっ! 近いっ! 霧島さんの唇が俺の唇に迫り、焦った俺も背伸びする。

「ちょ、待っ……歩けないって!」

前後に美少女が張り付き、俺の足元がふらつく。

「おいおいっ! 見せつけてくれるじゃねーか!」

博也の声が聴こえた瞬間、体が突き飛ばされて気が付けば足元に地面が無くなっていた。

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