第39話 捜索
「「あのっ……!」」
俺と霧島さんの声が重なった。彼女は振り返り、大きな瞳で俺を見つめている。
近っ……。体をねじった体勢の霧島さんの大きな胸が俺の体にくっ付きそうになり、俺は思わず体を逸らした。
「ミナ君、今日は来ていいって言ってくれてありがとう。私、こういう事ってしたこと無くて……ちょっぴり緊張したけど凄く楽しいよ」
「俺も霧島さんが来てくれて嬉しいよ、眼鏡を外した顔も見れたしね?」
「やだ……私、ホントは眼鏡かけて無いと落ち着かないんだよ? 変じゃない? 私の顔……」
グッと顔を近づけた霧島さんの胸が俺の体に当たった。彼女の水着越しに伝わる胸の柔らかさに平常心を失い俺の心拍数は急上昇、だけど霧島さんの胸からもトクトクと早い心音を感じる。
「全然変じゃ無いって! 初めて霧島さんの素顔見て可愛いって思ったんだから!」
「えっ⁉」
言った途端、霧島さんは赤面した。
「ミナ君……私……」
霧島さんは何かを言いたそうにしていたが、ためらっているのか僅かに開けた口を閉じた。
二人の緊張が高まったであろう瞬間、俺の側頭部に水が浴びせられた。
「隙ありーっ‼」
嗣葉がボートを並べて水鉄砲を連射して、慌てた俺は水を避けようと後ろ手に手を付こうとした……が、そこは水面で体を支えられる訳も無く俺は水柱を上げて水中に沈んだ。
完全に意表を突かれ、ボートから落下した俺はパニックを起こした。足が底に届かないし息も吸い込んでいないから続かない! 俺はもがきながら急浮上して必死に視界に入ったボートの縁にしがみ付く。
「あっ、生きてた! 残念っ!」
俺の掴まったボートには嗣葉たちが乗っていて、彼女はウシシと嬉しそうに歯を食いしばって笑っている。
「嗣葉! いきなり何すんだよ?」
「いーじゃん別に! だってあんなに焦って落っこちると思わなかったし」
嗣葉は悪びれる様子も無くプイッと顔を背けた。
「ミナく~ん!」
霧島さんの声が遠くで聞こえ、俺がボートの縁に掴まったまま振り返ると遥か遠くに彼女のボートが流されていた。
「うわっ! マジか……。じゃあ嗣葉、また後でな!」
俺は霧島さんに向かって泳ぎ出したが、かなりの距離が既に開いていて直ぐには追いつけそうもない。
そうこうしてる間に流れるプールはメインの大きなプールに合流して霧島さんが人混みで見分けがつかなくなってしまった。
仕方ない、俺は陸に上がって防水ケースからスマホを取り出して霧島さんに連絡を取ってみた。だけど霧島さんは電話に出ない、俺は諦めずに何度も彼女に掛けてみたが全く反応は無かった。どうする? 広いけど泳いで探すか……。俺がスマホを防水ケースに仕舞おうとした時、嗣葉から着信が入った。
「ん? どーした嗣葉」
『あ、悠? 紗枝ちゃんなら電話出ないよ、私が携帯預かってるから』
「へっ⁉ そうなの?」
『うん、紗枝ちゃん防水ケース持ってないから私のに取り敢えず入れてあげてたんだよ』
「そーなのか……。俺、霧島さん探してるから分かったら連絡するよ」
『オーケー、私たちもそっち向かうから』
電話を切り、スマホをケースに戻した俺はプールに飛び込んだ。
◆ ◆ ◆
メインの巨大プールを横断するように泳いで霧島さんを探してみたが、俺は彼女を見つける事が出来ずにいた。飛び込んだ位置と真逆の陸に上がり、俺は紺のビキニの娘を探す。
紺色着てる娘多いな、だけど霧島さんはパレオを巻いていたし……黒髪ショートでスタイルがいい。
「おーい悠人!」
俺の背中に声が掛かった、博也が俺に追いつき「まだ見つからないのか?」と困った顔をする。
「ああ、それよか嗣葉はどうしたんだよ?」
「嗣葉ちゃんは逆回りで探すってさ、彼女は携帯も持ってるし大丈夫だろ」
「まさかこんな所で人探しとはな……」
俺は回りを見渡して霧島さんの姿を探す。
って、博也もいねーし!
遠くで博也の声が聞こえた。
「悠人! トイレ行ってくる、また後でな!」
「はあ? みんなバラバラじゃねーか、大丈夫かよ……?」
俺は小さくため息を付き、人混みの中から霧島さんを探そうと目を凝らした。
俺はプールの外周を歩き、元の位置に戻りながら水面のボートもチェックする。
霧島さん、防水ケース持ってなかったんだ……売店に売ってないかな? 俺は目に入った売店に近づき、何となく防水ケースを探した。
あった……そんなに高くないし買ってあげるか。
俺は厚手のビニールで出来た紐付きの透明ケースを手に取り、レジに向かった。
スマホで決済を済ませ、商品を受け取った俺が再び歩きだすと、細い通路に男たちがたむろしていた。
トイレ、ここにもあるんだ……ん?
男たちの向こうに赤と紺のビキニの娘が見えた、あれって……。
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