第24話 決行日
翌朝、俺は自転車に跨ったまま嗣葉が家から出て来るのを高梨家の門の前で待っていた。
遅っせーな、遅刻しちまうぞ。
イライラしながらスマホで時間を確認する。いつもより5分以上遅い、これじゃあ自転車を飛ばさないと間に合わないぞ。
「行ってきまーす!」
玄関ドアが勢い良く開き、嗣葉が大きな声を出しながら飛び出して来てた。
制服の赤いリボンを胸元の開いたワイシャツの上で緩く締め、腕まくりをした嗣葉が短いスカートを翻して自転車に飛び乗り、「お待たせーっ!」とピースする。
「おせーぞ嗣葉!」
「だ~って前髪気に入らなかったんだもん」
嗣葉は地面を両足で蹴って惰性で自転車を走らせると俺に近づいて来た。
「前髪ね……どうせ20分自転車乗ったら崩れるんだから」
「そーゆーんじゃ無いのっ! 変な癖ついてたし」
口を尖らせた嗣葉の唇に目が行き、昨日のニアミスみたいな状況を思い出す。
プルプルでつやつやな柔らかそうなピンクの唇……キスってどんな感触なんだろ…………。
「ん? 悠、はやく行こ?」
金髪を揺らし、首を傾げた嗣葉がペダルに足を掛けた。
「う、うん」
唇に目を奪われてしまった。くっそー、嗣葉は何も気にしてないのに……俺はバカか? 昨日のドキドキが蘇って来ちまった。だいたい嗣葉は今日、作戦を決行する気なのか? 聞きたいけど忘れてたとしたら思い出させたくないし……笹崎先輩の目の前でキスのフリって学校でってことだよな? それってヤバくね? フリでも誰かに見られたら大変なことになりそうだぞ。
俺、男子生徒に殺されるかも……。今度ばかりはプロレス技で済む気がしないんだが。
「って、嗣葉いねーし!」
嗣葉は遥か前方で自転車を走らせていた。
「何やってんの? ゆーうーっ!」
自転車を停めて振り向き、嗣葉が俺に大きく手を振ったので、俺は慌てて立ち漕ぎして彼女の後を追った。
◆ ◆ ◆
嗣葉は学校で今日一日、キスのフリ作戦を一切口にしなかったばかりか恋人のフリさえしなかった。一体何なんだ? 言ってることとやってることが無茶苦茶で俺は彼女に振り回されっ放し、だけどこのまま何事も無く帰れるのなら俺には好都合、俺には下らない事に付き合っている暇など無い、早くバイトに行ってドリステ資金を貯めないとな。
放課後になり、俺が席を立って廊下に出ようとした時、教室で嗣葉に手を掴まれた。
「じゃ、行こっか? 生徒会室」
にっこり笑った嗣葉が肩に鞄を担いで歩き出す。
「はっ? やるの? 俺、時間無いんだけど……」
「直ぐ終わるから、行くよ!」
マジか……。急に緊張して来たぞ、キスのフリって言ったって嘘だとバレないくらい顔を近づけなくちゃならないし大丈夫かよ?
「嗣っ! 帰ろー?」
廊下に出ると、壁に寄りかかって待ち構えていた木下あずみが嬉しそうに駆け寄り、嗣葉の肩をトントン叩く。
「あ、御免ねあず。今日、悠と行くとこあるから」
嗣葉はひらひらと木下に手を振った。
「はぁ⁉ 何で? 最近全然遊んでくれないじゃない!」
グイグイ迫る木下の圧に嗣葉はたじろいで苦笑いを浮かべている。
「また今度誘って、バイバイあず!」
「えーっ? ちょっとー!」
頬を膨らませた木下が不満げに腰に手を当ててこちらを睨み付ける。木下と目が合うと彼女は声を出さずに唇を動かし、俺に「コロス」と真顔で言ったのが分かった。
うげっ! 絶対恨んでるな、木下の奴……でも、俺を恨むのは筋違いだぞ。
腕を嗣葉に引っ張られ、つんのめるように俺は生徒会室に連行される。
階段を降りて校舎の二階の突き当りを曲がると生徒会室がある、この場所に近づく生徒は生徒会関係者だけ、他の生徒は誰も寄り付かない。
生徒会室の扉の前に連れて来られ俺はソワソワして辺を伺った。マジでやるのか? フリだったら角度によってはしてないってバレそうだけど大丈夫か?
嗣葉が生徒会室のドアに手を掛けたが鍵が掛かっていて開かなかった。
「よしっ! まだ来てないみたい」
嗣葉は振り向くと満足そうに笑みを浮かべる。
曲がり角からそっと廊下を覗き込んだ嗣葉の後ろ姿に俺は「どーすんだよ!」と声を掛ける。
「しっ! 笹崎先輩が鍵持ってるからいつも一番乗りでこっち来んの! 来たらドアの前でキスするから上手くやりなさいよ!」
「上手くって……したことも無いのに……」
「大丈夫だって! 顔接近させればしてるように見えるから!」
腰を折り曲げて廊下を覗く不審者……いや、幼馴染が「遅いなぁ……」と呟く。
嗣葉はお尻を突き出して廊下の角に張り付いていて太ももを俺に晒している。スカートの裾から腿の付け根が覗き、お尻の丸い膨らみがチラチラはみ出していてあと僅かで下着が見えそうだ。
思わず俺が嗣葉のお尻に見惚れていると、嗣葉が「来たっ!」と言って振り向いた。
俺はいやらしい顔をしていたのではないかと焦って顔を整える。
嗣葉は俺の手を引っ張り、生徒会室の扉に背中を付いて腰に手を廻して来た。
ギュッと俺を締めつける嗣葉の体が密着して柔らかい胸の感触がワイシャツ越しに伝わってくる。
顎を上げた嗣葉が「して……」と囁いて目をゆっくり閉じる。
えっ? えっ? ど、どーすんだよ!
俺の体から汗が吹き出る、眼の前で嗣葉の可愛い顔がキスをねだっている。
ドキドキが止まらない、俺は唾を飲み込んで、嗣葉に顔を近づけた。
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