再会

2日後の月曜日、僕は『モーストロ』に行ってみようと思った。無性に悲しくなったからだ。何故なら、昨日の競馬で3万円も負けてしまったんだ。

11時半過ぎに店へ着いた。平日なので席も空いているだろう。僕は入り口のドアを開けた。

「いらっしゃいませ」

絶妙なタイミングで程よい大きさの声。僕は、まさかと思い声の方を見る。

「お1人様ですか?」

「な、何で?」

「はい?」

目の前には2日前に別れを告げた化け物の彼が居た。

「故郷の星に帰ったんじゃ……」

「ええ、昨日地球に戻ってきました」

「そんなに近いの?」

「いえ、かなり遠いですけど瞬間移動出来ますので……」

「もう2度と会えないのかと……」

「ははは。毎週帰ってますよ」

「そ、そうなんだ……」

僕は何かモヤモヤした気持ちでカウンター席へ案内されたのだが、「いつもので宜しいですか?」の一言で心が晴れた。やっぱり、彼は僕のメニューを覚えてくれていたという喜びが勝ったのだ。彼が去った後、よくよく考えると、牛丼屋での会話は微妙におかしくないか? と思ったのだが、一言一句覚えている訳が無いので指摘するのを諦めた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


僕は、ピザを頬張りジンジャエールを流し込む。やっぱり最高に旨い。とは言え、2日前に食べたばっかりのせいか、最後の1切れともなると美味しいとは感じなくなった。たまには何かデザートでも食べたいなとメニューを手に取ろうとした時だった。

「お客様、柚子って苦手じゃないですか?」

「柚子? まあ、好きな方だと思うよ」

「良かった。最近、柚子のシャーベットを始めたんですよ。いかがですか?」

何というグッドタイミングなんだ。間違い無い、彼と僕とは最高に馬が合う。

「じゃあ、1つ頂こうかな」

僕がそう言ったのを聞いて、化け物は僕に近付き小声で言う。

「サービスしときます」

彼は離れ際にニッコリと微笑むと、何事も無かったかのようにキッチンへ向かった。

素晴らしい。440円のサービスとは言え、僕は彼と友達になりたいと思った。何とかして連絡先を聞きたい。だけど、スマホなんて持っているのだろうか? しかも、断られたらどうしよう。女性に断られるなら諦めもつくが、化け物に断られた日には激へこみだ。彼がめすである可能性も0ではないが……。

彼はシャーベットを持ってきた。

「ありがとう」

「あの……」

「ん?」

「もう1人の店員って覚えてます?」

「あ、ああ、覚えているよ」

「実は彼辞めちゃったんですよ」

「そ、そうなんだ」

「それで……もし宜しかったら、こちらで一緒に働きませんか?」

僕は、それだ! と思った。彼と友達になる1番の近道だと思い、2つ返事で承諾した。彼も喜んでいる。それもその筈、土日に親孝行をする彼にとって、土日に入ってくれるバイトが1人は必要なのだから。

僕は少しテンションが上がりながらレシートを持ってレジへ向かう。もちろん2,178円も準備済みだ。いつも同じ金額なので覚えている。

「お会計2,420円です」

僕は聞き慣れない金額に一瞬固まってしまった。

「え? もしかして、シャーベット代入ってる?」

「はい」

「サービスって……」

「すみません、半額サービスなんです」

マジか、と思うと同時に、僕は500円割引券を貰っていた事を思い出した。シャーベット代がタダより、半額の方が2,000円を超えるので、むしろ安くなる。僕は財布から500円割引券を取り出し彼に渡した。

「すみません、こちら期限切れみたいです」

あまりの怒りに僕は無意識のうちに巨大化し、店の天井に頭をぶつけた。



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正義のヒーローの僕が世界を救った時の話 ジャメヴ @jamais

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