第32話 それぞれの朝
—翔太side—
日曜の朝だというのに、平日よりも早い時間に目が覚めた。
今日はいよいよゆかりさんとのデートの日だ。
プランはバッチリ立てたが、結構緊張している。
今週はずっとこのプランを考えていた。時間を見つけて下見にも行った。イメージは完璧だ。
一緒にお昼を食べに行くことだけは伝えてあるので、11時ごろにゆかりさんの部屋に迎えに行くことになっている。ランチの後は、陶芸絵付け体験に行ってペアマグカップを作って、水族館に行って、ディナーを食べて、店の近くで見つけた良さげな雰囲気の場所で告白する、というプランである。
これを無事に完遂できれば、きっといいデートになって、僕がゆかりさんをリードできる、頼れる男になれるはずだ。
トーストと目玉焼きを食べながら、そんなことを考えていた。
ここから始まる二人に重なるように、テレビの天気予報が夏の始まりを告げていた。
こんな奴が本当にゆかりさんの彼氏になれるのか、という弱気を振り払うために今日までを過ごしてきた。
もう僕は、止まれないところまで来てしまっている。
身だしなみを整え、ゆかりさんに選んでもらった服を着る。
時刻は10時55分。
もう一度気合を入れ直し、少し早いけど部屋を出た。
—ゆかりside—
私は翔太くんの何なんだろう?
あの日以来、そのことをずっと考えていた。
翔太くんだって、女性と二人きりで遊びに行くことの意味くらい、わかっているはずだ。
同級生の女の子とあんなに楽しそうに映画デートをした翌週に、私と二人で遊ぼうと誘う。
どういう心理?
私のことは、本当にただの友達としてしか見ていないのかもしれない。
今日だって、ただ単に年上の友達と二人で出掛けて、楽しい休日を過ごす。
ただそれだけのことなのかもしれない。
私はあの日、翔太くんが遠く感じてしまった。
可愛くて、少し頼りなくて、でも私のために頑張ってくれたりもする、そんな翔太くんが私は大好きだった。
でも、翔太くんは変わっていった。
あの日料理を作りながら聞いた翔太くんの話し声は、初めて出会った日の何倍も、希望と明るさに満ちていた。
大学近辺では私しかいなかったはずの友達も、きっとこの1ヶ月でどんどん増やしていったのだろう。素敵な女の子と映画デートできるくらいに。
これから翔太くんには、たくさんの素敵な出会いが待っているはずで、その相手はきっと、翔太くんにいろんなものを与えて、翔太くんの話をたくさん聞いてあげられて、一緒に大人になっていく同世代の人なんだろうな。
10個も下の子を相手に一人で舞い上がって、私何やってたんだろう。
今日が終わったら、本当にただの友達に戻る。
せめて最後くらいは、綺麗な私で会いたい。
前の買い物で翔太くんに選んでもらった服を着る。
いつもより少しだけきちんと化粧をして、ソワソワしながら翔太くんを待つ。
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