第30話 映画デート



日曜の午後12時半。僕は駅前の大型商業施設にいた。


ここに来るのは数週間前にゆかりさんと一緒に服を買いに来た以来だが、今回の目的は買い物ではない。

今日はこの施設に併設された映画館で、ひろみと一緒につい最近公開されたアニメ映画を見る。ひろみは冗談で映画デートだとか言っていたが、普通に友達付き合いだ。



「もー。遅いよ。」

待ち合わせ場所に行くと、すでにひろみが待っていた。心なしかおしゃれしている気がするが、まあ休日だから浮かれているのだろう。


「いや、約束の時間ぴったりだから。映画まではあと1時間ぐらいあるし」


僕たちは13時40分の回のチケットを予約しているので、映画には余裕で間に合うのだ。ただ、お昼を食べてから行こうということで12時30分集合になっていた。


「こういう時に女の子を待たせるのは良くないよ。」

「悪かったよ。前ここで別の人と待ち合わせした時に予定より早く来てなんか変な緊張しちゃったことがあってさ。今日は時間通りに来てみようと思って」

「なにその変な言い訳。別に良いけど。」


少し拗ね気味のひろみ。全然良くなさそうな顔をしている。


「わかったよ。昼飯奢るから許して。」

「いいの?じゃあ許す。どこ行こっか。」

「高すぎるのはやめてね。同じバイトなんだから給料事情は知ってるでしょ」

「えー、どうしよっかな〜。なーんて。常識の範囲内にしとくよ。」

誘われたのに奢るのも変な話だが、このくらいで気を取り直してくれて助かった。


結局僕たちは、3階のフードコートでお昼を食べることにした。

僕はハンバーグ定食を、ひろみはパスタを頼んだ。

「やっぱ女子ってパスタ好きなのかな。」

「え?なんで?」

「いや、僕の知り合いの女の人も、前に一緒にご飯食べに行った時パスタ頼んでたからさ。」

「へー。なんか翔太にそういう相手がいるのが意外なんだけど。」


「まあ、アパートの隣の部屋に住んでるちょっと年上の人なんだけど、なんやかんやあってさ。」

「いや、なんやかんやあっても普通は隣人とご飯食べに行かないでしょ。ってか、そのひとと二人で行ったの?」

「まあね。洋服選んでもらったからついでにご飯もみたいな感じでね。」

「ふーん。」


なんだか微妙な空気になりながら昼食を終え、僕たちは4階の映画館に向かった。

席は面倒だったので隣にしておいたが、ドリンクと肘の置き場に少し困ったので次からはひと席離そうと思う。


映画を見終えてフードコートに戻ってきた僕たちは、アイスを食べながら感想戦を繰り広げる。


「戦闘シーンがアニメ版よりマシマシでカッコ良かったね!!」

「ほんとそれな。あとあのシーンが伏線になってたのがビックリだったよ。」

「嘘、どこそこ?私見落としてるかも」

「えーっと、アレだよ。確か10話あたりの」

「あー、はいはい。思い出したわ。」


「いやー、でも翔太のおかげでこの作品を知れて本当に良かった」

「そう?なら良かったわ。」

「翔太は結構前から見てたのかもしれないけど、私は最近知って一気に全話見たからすごい新鮮な感じで映画に行けてそれも超良かった。」

「いや、僕も実はちゃんと見たのは最近なんだよね。」

「そうなの?」

「いや、なんか有名すぎてちょっと逆に見づらいなーって感じでスルーしてて」

「へー。でもなんか気持ちはわかるかも」

「まあそれでこの前のゴールデンウィークの時にバァーって全話見て、気付いたら朝になってるぐらい夢中になっちゃったんだけど」

「ハハハ。確かに見始めたら一気に行きたいよね」

「そうだ、それで朝お腹空いてコンビニに行こうとした時に、さっき言った隣の部屋のゆかりさんが酔っ払ってアパートの前に倒れてたのよ。それがきっかけで仲良くなって・・・」


「ねえ、翔太、今日ずっとゆかりさんの話ばっかりしてるね。」

「え?嘘?」

「いや、本当。ご飯の時もそうだし、映画の話もいつの間にかすりかわってるし。」


言われてみればそうかもしれない。


「せっかく私と一緒にいるのに、なんか心は一緒じゃないんだなーって思うとちょっと寂しいよ。」

「なんかゴメン。」


うつむくひろみにかける言葉が見つからず、少し嫌な沈黙が続いた。



「ま、アイス奢ってくれたら許してあげる。」

「結局それかよ。」

「ムフー。」


ひろみの得意げな笑みに僕は、少し腹立ちながら安堵していた。

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