第25話 新しい友達
ゆかりさんの部屋に行くのをやめて、飲食店でのバイトを始めてから、数日が経った。
ゆかりさんのことを考えなくて済むように、大学とバイトと自動車学校でスケジュールをかなり詰めて、忙しく過ごしている。
これで良かったんだ、この道の先に望む未来があるのだと何度も自分に言い聞かせても、少し時間が空くと余計なことを考えてしまいそうになる。
そんななか、僕の頭を悩ます存在がもうひとり現れた。
当馬ひろみである。
バイト先で出会ったあの日から、急に仲良さげにしてくるのだ。
バイト先で妙に話しかけてくるなと思ったら、学年のグループから僕のアカウントをわざわざ見つけて、「よろしく〜」みたいなメッセージを送ってきた。
大学でも休み時間には、冴えない男子数名の群れの隅にいる僕の近くに、いつの間にか来ていたりする。
以前までは行き帰りのバス停で会ってもお互いイヤホンをしていたのに、話しかけてくるようにもなった。
普通に友達ができたという意味では嬉しいが、急に距離を縮めてきたので、少しだけ戸惑っている。
学食でひとり、唐揚げ定食を食べながらそんなことを考えていたところに、その悩みの種が近づいてきた。
「あ、翔太だー!ぼっちしてるの?」
「いいんだよ。これが落ち着くの。」
「ふーん。変なの」
「急にギア入れて馴れ馴れしくしてくる方が変だぞ。」
「バイトと部活が一緒ならそうするでしょ。ってか翔太って面白いよねー。」
「そうでもねーよ。」
いつの間にか自然に呼び捨てされてるし、こんな雑な会話ができるほどには距離が近づいていた。明るい側の人間のコミュ力と距離の縮め方には驚かされる。
「そうだ、この前新歓で翔太が言ってた映画、配信で見てみたよ」
「あーあれ。見たの?どうだった?」
「面白かったよ!最初は影の薄かったオッサンが最後には覚醒して世界救っててびっくりした!」
「そうそう。その登場のさせ方の塩梅がうまくできてるんだよね。普通に最初は中学生たちの群像劇っぽいもんね。」
「私、途中であの女子高生の子が可哀想で途中泣きそうになっちゃった。」
「確かにあのシーンは見ててしんどかったね。」
「そうだ。あのオッサン、翔太にちょっと似てるよね」
「そう?あんま嬉しくないんだけど」
「いや、いい意味でよ。」
「いい意味って言えばなんでも許されるわけじゃねーからな」
「あ、そうそう。他にもおすすめとか教えてよ。なんか展開が面白いやつ」
「アニメとかでもいい?」
「全然いいよ。翔太のおすすめなら面白そうだし。」
「じゃあこれ見てみてよ。ビジュアルが萌え系でとっつきにくいけど、ちゃんと展開が面白いから。」
「へー。じゃあ今度見てみるね!」
こうやって面白いものを語り合える新しい友達ができたと思えば、この関係も悪くない気がしてきた。
「そうだ、ひろみもなんかおすすめあれば教えてよ。」
「え?急に呼び捨て?ビビったー。でもいいね、今後もそれでよろしく!」
しれっと呼び捨てにしてみたつもりが、ガッツリ気付かれてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます