第14話 このままじゃダメ
—ゆかりside—
控えめな彼らしい守り方で私を守ってくれた翔太くんが可愛くてカッコよくて、もう少し一緒にいたくて、「今日も晩ご飯まだなんだ」なんて言ってしまった。
すると彼は、自室に荷物を置いてから、当たり前のように301号室のキッチンに来てくれた。
今日は翔太くんも疲れているはずなのに、私はずるいことをしている。
「ご飯もないので、今日は簡単に牛すじ煮込みうどんでいいですか?」
「え?簡単にできるのそれ?」
「はい。コンビニで買ってきた冷凍うどんと牛すじ煮込みパックを一緒に鍋に入れたらすぐですよ」
「へー、すごいね!」
「何もしたくない時とかこれ食べると気分上がりますよ」
「いいね、なんかこれくらいなら私でもできるかも」
冷蔵庫にあったネギを入れ、調味料で味を整える翔太くんの背中を見ながら、野菜も調味料も、1ヶ月前のこの部屋にはなかったことを思い出し、だいぶ私の暮らしに彼が入り込んでいるんだなとふと思う。
「はい、完成です。」
「美味しそう!いただきます」
「んー。今日も美味しいね。」
「よかったです。」
私が食べているところを見ている翔太くんの目は、いつも優しい。このままこの時間がずっと続けばいいのに。
「ゆかりさん。このままじゃダメな気がするんですよ。」
「え?」
「伸吾さんと一度ちゃんとお話して、ゆかりさんとの関係をちゃんと終わりにしてもらったほうがいいと思うんです。」
「あー、その話か。まあそうだよね。」
「やっぱり気が進まないですか?」
「うん。ちょっと一人だと怖くて」
「大丈夫ですよ。僕がいますから。一緒に行きましょう。」
「本当に?いいの?」
「はい。ゆかりさんが嫌ならアレですけど。」
「そんなことないよ。とりあえず、週末にカフェとかで会えないか連絡してみようかな。翔太くんは日曜日空いてる?」
「空いてます。」
—伸吾side—
大切な人、か。
俺のことも、あんなふうに言ってくれてた時期もあったのかな?
コンビニの店先でのゆかりの言葉を思い出し、ふとそんなことを思った。
面倒な口答えをする変な女だと思って、自分から別れたはずだった。
なのに、それから約1ヶ月、日に日に惜しいことをしたという思いが強くなった。
気がつくと、二人で過ごした街に足が向かっていた。
少し見るぐらい良いだろ、そう思ってそっと後をつけ始めて数日。
その日のゆかりは別の男と初々しく相合傘をしていた。
急に腹が立ち、その自信なさげな男から、ゆかりを奪い返したいと思った。
結果、ゆかりの心変わりを見せつけられた上に、その男に冷静に拳を封じられて今に至る。自分が無様で仕方ない。
このままじゃダメなのはわかっている。
何かがおかしい。こんなに思い通りいかないこと、今までの人生にはなかったのに。
珍しくテンションが下がっていたその時、スマホが鳴った。
一通のメッセージ。送り主はゆかり。
嬉々としてメッセージ開く。
「日曜日の朝10時。いつものカフェで会えませんか」
いつもよりかしこまった文面に、嫌な予感がした。
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