第15話 作戦会議



—翔太side—



ゆかりさんのメッセージに、すぐに伸吾さんから「了解」と返信が来た。

こうなるともう決戦は日曜日で決まりだ。

僕たちは本格的に日曜日の作戦を考えはじめた。


「僕たち二人の関係はどういうことにしましょうか」

「うーん。お隣さん?」

「いやいや、ただの隣人が恋人の別れ話に同行しないでしょ」

「確かに。」

「家事をしてるだけだって正直に言ってもいいんですけど、説明が面倒だしなんか言われそうですもんね」



「じゃあ、恋人ってことにしとこっか?」



ゆかりさんが微笑みかけながらそんな言葉を言うので、勘違いしそうになるが、実際には、ただ少し仲がいいだけの隣人なので、


「そうですね、そういうことにしときましょう。」


と平静を装ってこう答えるのが精一杯だった。



そんな葛藤はきっと微塵も知らないゆかりさんが話を続ける。


「そういえばさ、翔太くんって結構外見に無頓着だよね。」

「まあ、最低限しかしてないですね」

急に痛い所を突かれた。やはり女性から見たら気になるのだろうか。


「あんまり大学生っぽい感じの服とか持ってないでしょ。」

「まあ、はい。」

服屋に行くのが面倒で、高校・下手したら中学の頃から着ているパーカーやロンTで今日までやり過ごしてきたこともバレていたようだ。


「いや、恋人役はそれなりに見た目が良いほうが伸吾も諦めるかなと思って。」

「まあ、そうですね。」

傷つかない言い方をしてくれたけど、やっぱりゆかりさんも恋人にするなら外見がいいほうが良いんだろうな。


「土曜日って時間あるかな?」

「午前中は自動車学校なんですけど、昼過ぎからは空いてます」

「じゃあ一緒に買い物しない?」

「え?」

「私も、とびきりのおしゃれして別れ話をしたいから。」

「そういうものですか。」

「だからさ、わたしたちが出会ってから付き合うまでのあの感じに見えるように、いい感じの服を買いにいこうよ。」

「いいですね。でも何を選んだらいいかわかんないんですよ」

「私が翔太くんの服も選んであげるから。」


「じゃあ、土曜日は13時に駅前の時計台で待ち合わせでいいかな?」

「はい。」


これっていわゆる“買い物デート”ってやつでは?

変に意識してこの関係を壊したくなくて、そんな思いを心の中にしまう。


「じゃあ、今日はこれで」

「はーい。今日もありがとね。」


僕は、ひとまず頭を冷やすために301号室を後にした。





—ゆかりside—


部屋の扉が閉まるまで、私はその愛しい背中を見ていた。


その数秒後。私は隣の部屋に聞こえないように枕に叫んだ。



どうしよう!!

恋人って言っちゃったーーーー!

買い物デート誘っちゃったーーーー!



ていうか、何?

今日の翔太くん。

かっこいいし可愛いんだけどーーー!


守ってくれて、話聞いてくれて、嫉妬してくれて、料理うまくて・・・

最強すぎるーーーーー!




・・・取り乱した心を無理やり落ち着けて決意する。


ひとまず、明日からもこれまで通りを頑張ろう。照れて変な空気になったら耐えられないから。


でも、土曜日は最高のデートにしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る