第5話:キャンプマジックは超強力

 仕入れの量を増やしているけど、途中で足りなくなる日もしばしばある。

 そういう時は、日向さんの代わりに“たちばな精肉店”さんへ行く。


「最近すごいわねぇ」

「ありがたいことです」


 女将さんから受け取った袋の中身を確認する。


「キララちゃんは招き猫ね」


 そんな縁起のいい人間じゃないけど、役割的には合ってる。


「パソコンで商品を売るなんて、若い人にしかできない発想だわぁ」

「日向さんも苦手だって言ってました」

「そうよねぇ。日向君も私たちと似たような年齢だものね」


 そこ一括りにしちゃうんだ。30歳ぐらい離れてそうだけど。


「キララちゃんが来てからの日向君、とっても楽しそうで私もうれしいわ」


 全然そんな風には見えませんけど。一日に一回でも口角上がれば、レアすぎて写真撮るレベルなんですけど。

 

 本当にそうなのか、今日から注意深く観察してみよう。


「でも残念ね。キララちゃん1年しかいなんでしょ?そのあと一人で大丈夫かしら」


 言われてハッとした。1年後のこと、まったく考えてなかった。


 ぶっちゃけ今の成果は私の影響力を使って得たもので、知名度に関してはお店の力じゃない。

 分かっていたけど、ここしばらく忙しすぎてそのことが頭から抜け落ちてた。


 これはマズイ。さっそく作戦を立てないと!


「日向さん、趣味ってあります?」

「突然なんだ」

「お仕事してる姿しか見たことないので、趣味とかあるのかなぁって」


 この人はお店が超ヒマな時でもずっと作業してる。定休日でも。

 仕事に一筋な姿は十分アピールできてるから、今度はプライベートの一面を見せたい。


「趣味……」


 考え込むほど見つからないらしい。


 待つこと数分。やっと口が開いた。


「キャンプは好きだな」


 キャンプか。キャンプね。

 うん、いいんじゃない?イメージ的にもピッタリじゃない?


「じゃあ今度の定休日はキャンプしましょう!」



 ということで、キャンプ場に来ています。

 

 今日の目的は、日向さんがキャンプ飯を作ってるシーンの撮影なので、お店の商品をいくつか持ってきています。


「焚き火とソーセージって映えますね!」


 いつも食べてるソーセージが100倍おいしそうに見える。

 これはいいプロモーションになるぞ。


「熱いから気をつけろ」


 フーフーしてからパクリ。


「んー!!んまいっ!」

 

 ナニコレ!ヤバッ!マジでいつもの100倍おいしい!

 キャンプマジックってすごい!


「キャンプ用のセットをつくって販売しましょう」


 絶対売れる。間違いない。


「定休日も仕事か。人のこと言えないな」


 日向さんが笑いを嚙み殺してる。

 隠してるつもりらしいだけど、肩が震えてるからバレバレだ。


「いいんですよ私は。結果出さないと追い出されちゃうんですから」


 まぁ、もうそんな心配しなくてもいいだろうけど。

 ちょっとした意趣返しのつもりで蒸し返す。


「これ以上の結果を出すのか」

「日向さん一人でもこれが続くようにしないと」

「過労死するぞ」

「その前に人を雇ってくださいよ」

「……」


 黙るタイミングかな?


 話題を変えるために、気になってたことを聞いてみる。


「今さらなんですけど、邪魔じゃないです?私」


 土下座までして居座ってる人間のセリフじゃない。


 あれから真面目に毎日観察してたけど、楽しんでる雰囲気はまったく感じなかった。


「もしそうだったら、とっくに追い出している」


 そうだろうなぁ。そういうタイプの人だもんね。


「いっしょにいて、楽しいです?」


 心の中にしまってた気持ちが、すんなり口から出てくる。

 これもきっとキャンプマジック。  


「飽きはしないな」

「何か面白いことしましたっけ?」

「星には、いつも驚かされている」


 ふた回りも違う人間との生活なんて、異文化交流みたいなもんか。


 あっ、火が消えそう。


「楽しいよ。一人だった時が思い出せないぐらいにな」


 日向さんの顔がよく見えない。

 火が消えて、辺り一面真っ暗。


 空を見上げれば、星がきらきら輝いていた。


「きらきら星、か。いい名前だな」

「……星キララです」


 誰がつけたか知らないけど、全然好きな名前じゃないけど、ほんのちょっとだけ、この名前で良かったな。



 キャンプ場で撮った動画はInstagramにアップして、キャンプ用セットの販売をオンライで開始。


 キャンパーさん達の評判も良く、キャンプでの調理風景をSNSにアップしてくれてる。

 

 お店に来てくれるお客様の反応も変わってきた。


 これまでお客様が日向さんに話かける場面なんて見たことなかったけど、今はたまにキャンプについて話してる。


 うんうん、いい傾向だ。


 インサイトを確認するためにInstagramを開くと、一通のDMが届いていた。


「えっ?取材?」


 キャンプの雑誌が何の用?

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