第4話:その心づかいがうれしいよ

 江里花さんからロゴとパッケージのデザインが送られてきた。

 これ以外はありえないってぐらい完璧。


 日向さんにも確認してもらう。


「これはすごいな」


 デザインに疎そうな日向さんでも感動するレベル。

 やっぱりあの人は天才だ。


 ロゴを各SNSのアイコンに設定する。

 新しいデザインでパッケージを作り直す。

 オンラインショップの開設手続きを進める。

 商品撮影のためにプロのカメラマンを手配する。


 やることだらけで忙しいけど、この準備期間が一番好き。どうなるか分からないから、新しい未来にワクワクする。


「日向さん、ネット販売する商品について相談いいですか?」


 コクンと頷いてくれたので作戦を話す。


 ネット販売では、贈答用の詰め合わせセットを主力にしたい。贈答品をケチる人はいないから高単価でも大丈夫。

 単品購入も可能にして、5,000円以上購入で送料無料にする。ついで買いを促して、送料無料分まで買ってもらう。


 つまり、一人あたりの単価を上げて、効率よく儲けようぜって作戦。


「いかがでしょう」

「いいだろう」


 おー!即答だ!


「実体験から得た発想か?」

「よく分かりましたね」


 ドンピシャで当てられて、ちょっとビックリ。


「星のブログを読んだ」

「えっ!うそ!」

「嘘じゃない。これだろ?」


 スマホの画面を見せてくる。

 ガラケーじゃないのが意外。


 そこに映るは紛うことなき私のブログ。

 お取り寄せグルメのレビューとか、ネット販売で売上を伸ばすコツなんかを書いてる。


 わざわざ検索したのかな。

 まさか記事まで読むとは。


「なかなか勉強になる」

「……ありがとうございます」

「どれもうまそうだ」

「……」


 ヤバい。ガチで恥ずかしい。内面を覗かれた気分。


「思うようにやればいい。好きにしてくれ」


 突き放すようにも聞こえるけど、そうじゃない。


 私のことを信頼してくれてる。

 この人の目が、そう言ってる。


「任せてください!がんばります!」


 信頼されたい以上、それに報いたいと思うのは当然のこと。

 最初から手は抜いてないけど、より一層力を入れて取り組んだ。



 新しいパッケージができたので、カメラマンに商品撮影をしてもらった。

 素人がスマホで撮ったものとは、クオリティが全然違う。


「俺が作ったソーセージとは思えないな」


 その出来栄えに日向さんも大満足。

 グルメ系は写真が命だから費用を惜しんじゃダメ。


 商品だけじゃなくて、SNS投稿用の料理写真も撮ってもらった。

 

 うん、どれもオシャレでおいしそう。


 次はInstagram用のショート動画を準備する。こっちは毎日投稿するから私のスマホで撮影。


「カメラ回してますけど、気にしないでください」


 レンズを向けられた日向さんは、とっても居心地悪そう。でもここは我慢してもらわないと。


 作業風景を見せることでお客様の安心感は高まるし、購買のハードルが一気に下がるのだ。

 それに作業してる時の日向さんは、まさに職人さんって感じでカッコイイ。

 その良さが、お客様にも伝わってほしいな。


 他にも、私が朝、昼、夕ご飯を作ってるシーンを撮影。

 購入後のイメージを持ってもらうために、さりげなくお店の商品を使って料理した。


 オンラインショップも開設して、準備完了!

 今できることはこれで全部かな?

 さてさて、結果はどう出るやら。



 期待と不安をよそに、結果はすぐに出た。


「詰め合わせセットの注文が5件入ってます」

「ソーセージの在庫が切れる」

「了解です!ショーケースも調整します」


 在庫切れの商品が出そうなぐらい順調。

 フォロワーさんがお店に来てくれるおかげで、店舗の売上も右肩上がり。


 閑古鳥はどっかに飛び去っていき、私も日向さんも休むことなく働き続けた。


 そしてやっときた定休日。


 さすがの日向さんも疲労困憊のようで、朝からソファーでぐったりしてる。

 いつもより食べる量が少なかったから、その疲れ具合は相当だ。


「寝るならお部屋で寝た方がいいですよ。ご飯はちゃんと残しておきますから、好きなだけ寝てください」


 今にも寝そうな日向さんの肩を叩く。

 筋肉なのか疲労なのか、超硬い。下手に触ると突き指しそう。


 動く気配が全然しないけど、口はモゴモゴ動いてる。

 聞き取るために、耳を口元に近づける。


「…めしは…いっしょに……しあわせ…」


 わざわざ起きてきた理由が私とご飯を食べるため?

 言った私が忘れてたことを、この人は覚えてたの?


 ビックリしすぎて涙出てきた。

 やばっ、はずっ!


 このまま寝ちゃいそうだからブランケット持ってこよ。ついでに顔を洗いにいこう。


 日向さんが目を覚ましたら、おいしい料理をテーブルに並べて、笑顔でこう言うんだ。


「いっしょに食べましょ!」


 ってね!

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