第十三話 退避

 思えば。生身の人間が、それも女がこの武器を装備したロボットなどに敵うわけがなかった。

「……………ッ!!」

 アパートを飛び出し商店街を抜けニシキがいる大通りへと向かう途中。

「ハイジョスル…………ッ!」


 ロボットに、見つかった。


 ズザァッと地面に倒れ込む。

「…………ッ!」

 ガチャン、ガチャンと不気味に鳴る甲冑の音がまるでわたしへ死の宣告をしているように感じた。


 助からない。


 鈍く光り、幾何学模様が施された剣が振り下ろされる。いやにゆっくりと見え、無駄だとわかっていながらも腕を顔の前で交差させる。

 ヒュンッ、と空を切る音と共に剣は振り下ろされた。

「…………ぁ……ガ、ハァ……………」

 ぐらりと視界が傾きドサァ、と崩れ落ちる。切り裂かれた痛み。恐怖、不安。そんなのは一切感じなかった。


 不思議なほどに。


「…………………え?」

 それもそのはずだ。倒れたのはの方だったのだから。

 ジジ、ジジ。バチバチバチッとロボットの体から火花が上がる。まるで雷の放電かのような青白い電光が上がればバチィィインと焼け焦げた。

「………………………」

 何が起きたのかわからず呆然としてしまう。

 何が起きたのか。ただひとつわかることがあるのだとすれば。

「助かった…………?」

 そう、それだけ。

 ドクン、ドクン、と心臓の鼓動は大きく緊張のせいか呼吸は荒い。

 あれだけわたしが敵わないと思っていたロボットも今は完全にショートしてしまっている。

「いかなきゃ……………ッ」

 座り込んでいる暇などない。この瞬間、ニシキがやられているかもしれないのだから。









 そっと、わたしは様子を伺う。

 あのあと、運良くロボットに見つからずにここまで来ることができた。

「……ねぇッ!?早く死んでよッッッッ!!!」

 髪の長い少女が叫んでいる。右手を振り下ろし彼女の後方に控える異形の者たちに司令を出せばソレらは弾けるようにロボットたちに襲いかかった。

 ガキィィィィンッッ、と金属同士の音を響かせヒバナを飛び散らせる。

「ニシキはどこにいるのかしら」

 あたりを見回せど姿が見えない。もう移動してしまったのだろうか。

 そっと移動し電柱の影に隠れながら探す。道路と建物も間を虱潰しに見て回る。

「……………あっ!」

 見つけた。赤い血痕とが落ちていた。

 そっと手に取る。ズシリとした重量が感じられた。

「まだ、この近くにいるの………?」

 立ち尽くし、そっと鎖を胸元へ持ってくる。

「…………ねぇ、まだ生きているわよね?」

 静かにそう呟いた。目を閉じ、ただ彼が生きていることを願う。

 すると、ドォォォオオンッッッ、と爆音とともにミサイルが近くに着弾した。

「…………ッッッック!!!」

 爆風が体を衝き動かし隠れていた路地から表通り――前線へ吹き飛ばされた。

「……………あッ!!」

 ゴロゴロと転がり背を打ったせいで激しく咳き込む。

「ナニモノダ………ッッッ!!!」

「………あれぇ?おねえさん、どうしてこんなトコにいるのぉ………?」

 司令官と思しきロボットと主犯格の異形使いの少女が同時に言った。

「ハァ、ハァ…………ッあ………」

 だが、それどころではなかった。体が、痛い。打ち身か、それとも骨折か。爆風によって火傷も負っている。とても、この状況でなにかできるわけもなかった。

 このままじゃまずい。

 どうにか体を起こそうとするがもうびくともしない。

「ダレデアロウトハイジョスルノミ」

 短剣、短銃を装備した中型アンドロイドが歩を進める。計4体。さっきの比ではない。

「させないよっ」

 ブオン、と風を薙ぐ音がしサソリのような合成生物キメラが弾き飛ばした。

「女の子に手を挙げるヤツ大っきらい!」

 べー、と舌を出し少女は言う。

「おねえさんを連れてきて」

 そう合成生物キメラに命じわたしの体を持ち上げさせた。

「………………ッ」

 ズキン、と痛みが全身に走る。唇を噛み必死に耐えていると少女はわたしの手をきゅっと繋ぎ言った。

「もう、大丈夫だよ」

 そう微笑った。

「みんな逃げるよ〜!!」

「…………え!?」

「……………ム?」

 いうが同時、いっせいに退避を始めた。

「ニガスナァァァァ」

 続々と追いかけてくるアンドロイドたちに向かって少女は右手を鉄砲のように向け「バァン」と可愛らしく言っていく。

 一体また一体と崩れ落ちていく。

 ピョンと合成生物キメラに飛び乗り少女は司令官に向かって言った。

「じゃあねぇ〜。また今度、殺してア・ゲ・ル……♡」

 狂気に染まり憎悪を剥き出しにした顔で笑った。








 路地を使い、時にはビルの外壁や民家と思われる屋根をつたいながら移動していく。

「大丈夫、おねえさん」

 心配そうな顔で少女は聞いた。

「……………大丈夫よ」

 そういうのが精一杯だった。ニコッと笑ったつもりだったが、うまく笑えていたかどうかは微妙だ。

「もうすぐだからね」

 横目で流れていく景色を見ながらアイを思い出す。

 何もできない、と言われたがそんなことはないと思う。現に、ニシキの鎖は回収したし。わたしが邪魔したと言っても結果的にこの争いは終わった。一時休戦という形で。

「着いたよっ。あれがわたしたちが住んでいるトコ」

 きゃっきゃとはしゃぐ少女が指す先にはやはり、路地裏があった。

 ガシャン、ガシャンと異形の者たちの背に乗り進んでいけばそこには巨大な研究所ラボがあった。

「…………すごい」

 圧巻だ。

「でしょっ」

 本当にすごい。もっとよく見たいと思い体を起こしたが視界がぼやけうまく見ることができない。

「ここはね………――」

 なにか言っている気がするがもう、体が限界だった。

 ぐらりと倒れ合成生物キメラから落下する。

「………おねえさんッッ!」

 少女の悲鳴と共にずっと聞きたかったあの男の声が聞こえた。

「…………ミコトォォッッッッ!!」

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