第十二話 戦いのその端で
時はほんの少し遡る。
「これは『強制捕縛警報』。コンバラリアの狂宴から、アナタタチを守るための、ケイホウです」
そう、アイに告げられた後のこと。
ドォン、と爆発音がなり、その直後ズズゥン、と鈍い地響きが起こった。
「………ッ!?」
グラグラグラ、と地震が起き体制を崩してしまう。
「なに!?」
爆発音は一度ではなくその後も何度か続いた。
「……………ハジマリマシタカ」
そう言うとアイは大きくした歯車をガラリと回しそのディスプレイに外の映像を映した。
映し出されたのはA1地区の商店街だった。まだ朝の早い、朝食の時間。商店街に来ていた囚人たちはその爆発音に驚き蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っていた。
「………………………………」
「……ウーン、コレじゃアリマセンネェ」
どこか気怠げにアイは言った。
パッと映像が切り替わり公園、ビル、住宅街……、と次々と映し替えていく。
こんなにカメラがあるのか。
路地裏、花壇の裏。そんなところまで映す必要が、いや。
監視する必要があるのか。
「…………ッ」
ゴクリ、と生唾を飲み込んだ。
「アア、イマシタ。こちらデスネ」
ようやく見つけたと言わんばかりの調子でアイは大通りを映した。
そこに映し出されたのはそれはまるで精巧な鎧のように。一糸乱れぬ隊列で『Android for prisoner capture』、通称A.P.Cと呼ばれる囚人捕獲アンドロイドの姿だった。先頭に立つのは他のアンドロイドよりやや大柄な機体。白いボディーに水色のラインが入っていた。右手を前方へ振り号令をかけている。
「ヤッてマスネェ」
どこかワクワクした雰囲気でこの人工知能は言った。
言ったような、気がした…………………。
「……………………」
ディスプレイには中型アンドロイドが剣や短銃を携えなめらかに駆けていく。
私はようやくこのロボットたちが何と戦っているのか視認した。
「……ぁ……、ぁ…………ッ!?」
あまりの驚きに言葉が出ない。砂埃がはれるとともに姿を現したのは、異形の集団だった。
(な、に……あれ?)
映し出される映像に目が離せない。
異様な形の
「イツ、終わりますかネェ?」
「……………」
賭け事をするようにわたしに尋ね。
「もう、終わりマスカネェ?」
「……………………」
退屈だと言わんばかりに歯車を回し。
「何度、繰り返すンデショウネェ?」
「……………………………………」
愉しくて仕方ないように確かにその声は嗤っていた。
だが、そんな物言いは今どうでも良かった。
ただただ画面を食い入るように見る。そして、見つけてしまった。
(ニシ、キ………………?)
画面の端の道路と建物の影に。赤く明滅する人工灯に反射する。鮮やかな金髪が垣間見えた。
「な、ぜ……………?」
(どうしてそこにいるの…………!?)
大通りで繰り広げられる戦闘を気にかけつつも彼は度々自分の足元に向かってしゃがみ込むような仕草を見せている。
(何をしているの……?)
すると。
一台のアンドロイドがニシキに気づいた。
「…………あッ!」
剣を構えたアンドロイドがニシキに向かってその大剣を振りかざす。
一刀目をかろうじて避けた彼は足元に向かって何事かを叫んでいる。
「ナカナカ、終わりソウにアリマセンネェ」
アイが言ったその瞬間。パッと画面の端で赤い血飛沫があがった。
「〜〜〜ッッッ!!!!」
口元に手を当て叫びそうになるのを必死で堪える。
(………ニシキッ!!!)
ガタガタと体が震え、嫌な汗が身体を伝う。
「…………ドコへ行くんデスカ?」
気づけば、玄関で靴を履いていた。
「……………………」
わたしは何も答えない。
「行ったトコロで、ミコトさん。アナタにはナニもデキやシマセンヨ」
靴を履きゆっくりとアイを睨む。
「…………そんなの、わからない、、じゃない。まだ、何もしてもいないのに、」
一度区切り片手でギュッと片腕を掴んだ。収まる気配のない震えを無理やり止めるように。
「………っでも!このままじゃ彼が………ッ!」
「99.8パーセント」
「………………え?」
急に言われた数字の意味がわからない。
「99.8パーセントデス。アナタがココカラ出てナニモデキズ戻ってくるカクリツは」
「言いマシタヨネ?」アイはわたしに再度こういった。
「ナニモデキナイデショウ?ミコトさんには」
くるくるくるくる、歯車が回る。まるでわたしを嘲笑うかのように。
(何もできない………………)
それでも。
「例え何もできなくても、ここでじっとなんてしてられないわッッッ!」
会って、まだ2日のわたしたち。
信用するのも、頼りにするのも、してはいけないような
「今行けば、まだ間に合うかもしれないのよ!」
毅然とそう言い放てばアイは「ココの鍵はアケテおきマスカラ」と言った。
「……………アイ」
何かとウザい発言をするアイ。
(意外と、いいヤツなのかしら?)
そう思ったのも束の間。
「マァ、ドウセ直ぐ帰ってくるデショウケド」
「…………………チッ」
(前言撤回、コイツはウザいわ)
バァン、とドアを強く閉め赤く明滅する牢の中へ一歩踏み出した。
震えはもう収まっていた。
(お願いよ、ニシキ。)
深く深呼吸をして体制を整える。
「………どうか生きてて……ッ!」
そして爆音響く前線へ向かって走り始めた。
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