第十一話 幕開け

『コンバラリアの狂宴』


ソレは狂宴と言うより、『夜行』といったほうがふさわしいのかもしれない。異形の者たちが乱雑に並び歩くそのさまは、古来の百鬼夜行を彷彿とさせた。


「ラララン、ラっララランラン」


少女が楽しげに歌っている。


「もしも、キミがソレを望むなら。ボクはどんなモノでも叶えてあげよう」


ゆっくり。誰もいない、いなくなった白い道を。少女を先頭に横幅いっぱいまで広がり行進している。


「…………カラダを。ココロを。イノチを…………差し出そう」


そっと慈しむように。閉ざされた空に向かって両手を伸ばす。


「ソレでキミの願いが叶うのならば。………幸福は必ず訪れる………♪。すずらんがボクタチにワライかけてくれているのだから………♡」


ギュッと小さな手を握りしめ酔いしれたように胸元へ持ってくる。

少女の後ろに続くは異形のモノたち。

記憶を失い、自我を失い、心を忘れた。


なにかの成れの果て。


「全てを差し出そう……。ソレでキミの願いが叶うのならば………」


ニコっと可愛らしく少女は微笑んだ。

その少女の眼前には武装したアンドロイドが立ちはだかっていた。

ジャキンッと銃を構え一糸乱れぬ隊列を組みながら戦闘態勢に入る。


「……………チュウコクヲスル。ワレワレニシタガイ、トウコウセヨ」


無機質な重量のある声が響く。その声はややノイズが混ざっていた。

「えぇ〜〜?イヤダよぉ!」

銃を目の前にしてなお笑みを崩さない。


「チュウコクハイチドキリダ。………ソウイン、セントウヨウイッ!!ゴミヲハイジョスルッッ」


ジャキキキキキン。一歩前に踏み出した15体のアンドロイドが銃を構え照準を合わせた。

ピリつく緊張感の中、やはり少女は笑っていた。



「………………ゴミは、オマエたちでしょっ!」


暗く少女は言った。

どちらが先に動いたか。ほとんど同時だったかもしれない。

バァンッと勢いよく銃が発砲され少女めがけて飛んでいく。まっすぐ飛来し少女に着弾するかに思えたその弾はしかし。当たる直前に横へ進路を曲げられ弾き飛ばされた。

少女守ったのは異形のモノ。人間の頭にムカデの足が生えたような機械じかけの機械人形オートマタ。無数に生える足には鋭いナイフのような刃物が着いていた。ゆらりと少女を守るかのように持ち上げたのはサソリのような尻尾だった。


「……………やっちゃえ」


少女の号令とともにグワンと尻尾を揺らめかせればドォンッと爆発音が鳴り響いた。


「………シュゴブタイゼンシン、シールドテンカイッ」


爆発音とともにアンドロイドたちに飛来するは小型ミサイル。占めて9台。ヒュゴオッと風を切り接近をすれば守備を担当するアンドロイドたちが展開した超音波シールドにより減速。後方待機の迎撃隊が迎撃ミサイルを放ち相殺した。


「………………んん…………っ」


爆風で吹き飛ばされそうになる少女の体をモニョモニョとした腸を引きずり出したかのような合成生物キメラが守る。


「ソウイン、モチナオセッ」


先頭にいる司令官らしきアンドロイドが号令をかける。

「ホヘイタイマエへ!」

ザッザッザッ。規則正しく靴音を鳴らし接近戦を得意とする中型アンドロイドが剣や短銃を携え接近する。

なめらかなその動きはロボットの域を遥かに超えていた。



「……………人間のようでキモチワルイ」



少女がそう言葉を吐いた。

ガチャンガチャンガチャン。どんどん近づいてくるアンドロイドに少女は慌てずその小さな右手をピストルのような形に変え中型アンドロイドの一体へと向ける。

「………バァン」

可愛らしく口に出したその一言で。手で狙われただけのアンドロイドの動きが止まり前にグラリと倒れた。

「…………ドウイウコトダ」

司令官アンドロイドは今何が起きたのか状況を分析する。

「キエエェェェェェェェッッッ」

するとけたたましい鳴き声とともに鋭い鉤爪に剛翼。鶏の頭を持った合成生物キメラがアンドロイドの頭上に影を落とした。

「コカトリスっ」

少女に名を呼ばれコカトリスはアンドロイドめがけ突っ込んでいく。

「サセルカ、シールド展開」

頭上に展開された超音波シールドにコカトリスは突っ込んでいく。

「ギエエェェェェェェェ」

超音波にやられたか、大声をあげる。だが、アンドロイドもまた。コカトリスに気を割きすぎてムカデと手が多く生えたクモのオートマタに気付かず数体が餌食となった。

「誰であろうと、邪魔する人はユルサナイッッッ!」

少女は叫び右手を頭上に掲げる。スッと勢いよく真下に振り下ろせば後ろに控えていた異形のモノたちが一斉に繰り出した。

ガキィィィンッッ。激しい金属音を響かせ戦闘は続く。






***






アイ曰く。

『コンバラリアの狂宴』とは、自由を願い、世界のすべてを憎む者たちの行進なのだという。


「ミコトさん。もし、アナタにどうしてもカナエたい願いがアッタトシテ。ソレガ実際にはケッシテカナワナイものだとしたら、ドウシマスカ?」


脳裏にアイの言葉が蘇った。

自分の本当に叶えたい願いが叶わない。それはどんなに辛く、苦しいことだろう。


(だからって)


「でも、ソレがカナウとイワレタらどうしますか?」


藁にもすがる思いだろう。

決してかなわないはずの願いが叶うのだから。


(そうだとしてもッ)


「だからニンゲンはコンバラリアを欲するんデスヨ。フカノウをカノウに変える」


奇跡の薬だから。


「………はぁはぁ……ッ…………は、ぁ……」

来た道をわたしは全力で走り戻っていく。


(お願いよ、ニシキ。)


「………どうか生きてて……ッ!」


彼が生きていることを願って。





奇跡の薬、コンバラリア。


使用したものには幸せが訪れるその薬はタダではない。


奇跡の代償が必要だった。


決して安くはないその代償。


叶わないと言われた願いが叶うのならば。


どんなモノでも差し出そう。


『奇跡』の代償には『悲劇』を―――――。

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