第七話 資源と言うなの○○
男に連れられわたしは商店街をあとにした。
「………どこに向かうの?」
そう問えば男はこちらを見ずに、「黙ってろ」と返した。
足早に来た道を戻り男は白い外観のビルの中に入る。打って変わって、ビルの中は荒れていた。
人の住まぬ廃墟。そんなイメージを抱いた。
掴んでいた腕をようやく男は離し、何も言わずわたしは男を見つめる。
「……なんだぁ、俺に惚れたのか?」
冗談交じりの声とともにフードの奥で獣のような目が嗤う。
「……っ!違うわよッ」
目を吊り上げ怒りをあらわにすると、「おお怖え」、とわざとらしく男は身震いをした。
「なんにために、わたしをここへ?」
気を取り直しそう尋ねる。男は振り向き窓際へ来るよう手招きをした。
「いいもんが見られるぞ」
所々にヒビの入った硝子に近づき外を見やると、先程いた商店街が見えた。
「良いものって、なにが―――」
サイド尋ねようとしたとき、ウィーーーーーンという電子駆動音が遠くから聞こえてきた。
「……………なに!?」
「……………ククク」
驚くわたしとは対照的に男は薄っすらと笑っていた。
商店街の向こう側から何か黒いものが近づいてくる。ゾロゾロと。どこか無秩序に雪崩込んできたそれは小型のロボットだった。
「ロボット?」
「あれは、清掃ロボットだ。それも資源回収用の、な」
ニタっと男は唇を吊り上げた。
(清掃ロボットのためだけに、ここへ来たというの?)
わけがわからずつい首を傾げてしまう。
男への疑心が高まり、「ねぇ」、と声をかけると、「黙ってみてろ」と返された。
たかが資源回収用の清掃ロボットの何を見るというのだろうか。不審には思ったが窓の外を静かに見つめる男を見て言うとおりにすることにした。
商店街のあるA1地区一帯がロボットの姿で塗りつぶされた。
そして、商店街や公園、廃墟、路地裏などに細長いアームを伸ばし何かを拾っていく。
(ここからじゃ遠くてよく見えない……)
アームに掴んだナニかを黒いビニール袋に入れていく。
10分程でロボットたちはまた電子駆動音を響かせながら戻っていった。
「…………ねぇ、あれは一体何を拾っていたの?」
たまらずわたしは尋ねた。
「オマエ………、俺の話ちゃんと聞いてた?」
愉しげに笑いながら男はどこかバカにしたような声を出した。
「………………聞いてたわよ」
「言っただろ?あれは資源回収用の清掃ロボットだって」
「…………ええ、それで?それがなんなの?」
察しの悪いわたしに半ば呆れているようだった。両手を広げ男はゆっくりと問いかける。
「ここに、ゴミなんて落ちてたか?」
「…………え?」
なにを、言っているのだろう。
「なかっただろ?ゴミなんて」
アパートを出てから商店街に着くまでゴミなんて一切目にしなかった。
拾えるようなゴミなど、なかったのだ。
ドクン、と心臓が強く鼓動した。
「なら……、なに、を?」
拾えるようなゴミなどなかったというのに。あのロボット達はゴミのようなものを拾っていた。
背筋がゾクゾクし何かが這いずり回るような、そんな感覚を覚えた。
男は窓際から離れくるりと回った。バサリ、とコートが翻りホコリが舞う。どこか狂ったように。酔いしれたように彼は謳った。
「人間だよ……………。あいつらは、人間を回収していったんだ」
男の言っていることが理解できなかった。
(人間を、回収している………?)
黒い、ビニール袋に。
アームを伸ばして。
放り投げるように。
人間を回収………。
「……………捨て、た?」
そう口に出した途端。なにか。体を持っていなかったモノが現実に具現化されてしまったような。変な気分になった。頭は冷水をかけられたように冷えてしまったというのに。体は酷い熱を持っている。
「………………はっ、はっ…………ぁ……っ」
その様子を男はスッと目を細め眺めていた。
すると。
「今日は、何曜日だ?」
「………………えっ?」
唐突な質問に一瞬思考が止まるが、「水曜日」と返した。外の世界では確か。水曜日は資源回収の日に当たっていた。
「ふ~ん」とどこか意味ありげに声を漏らすと男は、
「資源は大切に、タイセツにしねぇとなァ……ッ」
どこか暗い声で言った。
そんな男をよそに。わたしは混乱しきっていた。
(………人間を、回収?資源と………、して?)
狼狽える美琴を見て男はせせら笑った。
「ハハハ。いい顔してるな。オマエ、……………名前は?」
「…………片瀬」、と震える声で名乗ると一瞬の間のあと「……バーカ、名字は聞いてねーんだよ」、と小さな声で言われた。
「……………美琴」
初対面に相手に名乗るのもどうかと思ったが素直に伝えることにした。
名前を聞いて男は再び硬直した。
「あなたは、あなたの名前は?わたしだけ教えるなんて、ふ、不公平よ………っ」
「名前か………名前ェ?」、とうーんと考え出し、「ああそうだ、これにしよう」などと美琴に聞こえない声でブツブツ言った。
「ニシキだ。俺はニシキ」
ゆっくりとフードをとると金髪にギラリと光る目、狡猾そうな男の全貌が見えた。
「知りたいことがあるんだったら、いつでも来い。俺はお前を拒みはしねーよ」
どこか見たことあるような。優しい笑顔でそう言うと男、ニシキはビルを後にした。
のこされた部屋の中でわたしはペタンと座り込んだ。何がなんだかよくわからなくなっていた。
AIの
ただ震えだけが強く強く体の中に残っていた。
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