第五話 ヒトの歴史は心模様

「ヒトは罪を犯す生き物ナンデスヨ」

割れるような痛みに耐えながらわたしは耳を傾ける。


「カコ、数百年のアイダ。ヒトはイッタイどれほどのアラソイをクリカエシてきたコトデショウ?」


饒舌にアイは言葉を紡ぐ。


「戦争からハジマリ紛争、日々の小さなイザコザ。私利私欲を満たすためだけの犯罪」


ゴウン、と僅かな浮遊感が止り体が脱力する。


「……………………ッ」


ドサッと打ち捨てられるように床に倒れる。


(……………気持ち悪い)


「愚かなコトです」

「…………………………ッ!」

嘲笑するようにアイは言った。

すると、ヴンと音が鳴り全方向に映像が浮かび上がった。

「………っこ、れは…………………!」

左右上下に映し出されたそれは戦争の映像だった。


随分昔のものから。最近起こったものまで。


鮮明に映し出されるそれは人間の根底にある何かを表しているように感じられた。


「こっちに来るなァァァァッッ!」

「………イヤァァァッ、助けてぇ!!」


人々の怒号と悲鳴。


「………ヤッたぞ!これで全滅ダァ!!!」

「………ああぁ、どうしてッ、どうして…………あなたぁ…………ぁぁ」


歓喜と悲哀。


「………かった?……勝った、勝ったぞ!バンザーイッ、仲間たちの死は無駄ではなかった!!」

「まけ、た?……うそだ。嘘だ嘘だウソダァァァッッ!」


勝利と敗北。


それぞれの立場によって変わっていくモノをアイは映し出した。

「………っ……………ぅ、ぇ」

吐き気がした。

「先程のハナシにモドリマスガ」、とアイは前置きをした。

「ワタシはアナタがハンザイシャにナルなどとはケッシテ思ってイマセン。ですが―――」

「……わたし、が、人間……ッ、だから………?」

僅かに天を仰ぎ、猛烈な吐き気と戦いながら美琴は力無く言う。数瞬の後、アイは、「ハイ」、と答えそれ以上話さなくなった。


(わたしが犯した罪は、どうでもいい、か)


くわたしは決して横領などしてはいない。

けれど。それ自体。どうでもいい、と言われてしまったら。

「……はぁ、はぁ…………ぁ」


理不尽以外のなんでもない。


AIの牢獄ここに来たことが罪だというのなら。


(………………………)


ふっとわたしは微笑した。


いつの間にか。


そこはただの白い部屋のようなところに戻っていた。


全てが。


なにか悪い夢のような気がしたが、目の前でくるりと回る歯車を見て夢ではないのだと、実感した。


(もう、どうしたって戻ることはできない)


ふぅ、と息を付きアイに言った。

「わかった。あなたのいう通り、にするわ」

胸に手を当てぐっと握る。

「……でも覚えて……っおいて」、とわたしは続ける。

「この借りは必ず返すわ」

そう言うとアイは、「変わったヒトデスネェ」、と歯車を回した。


「改めて、ヨウコソAIの牢獄へ」


全く嬉しくない歓迎の言葉をかけられ、わたしの牢での生活が幕を開けた。


(受けて立つわ。例えこの先何があろうとも。わたしは後悔だけはしたくない……ッ)


勝ち気な笑顔で美琴は目の前のディスプレイを見据えた。

相変わらず、吐き気は治まらなかった。

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