第5話 決戦

季節はもう11月。バーレンサカモトとの約束の日まで1ケ月ちょっと。偶然にも12月25日はヒカルの誕生日。生か死か命をかけたチャレンジの日が目の前に来ているとは、今のヒカルには考える余地もなかった。


それから何回かノースに行っているがビックウェイブがヒットしない。このままでは50フィートの波などきそうもない。今年は恵まれない年なのか?今日で12月も中旬だ。バーレンサカモトも現れない。25日ももう数日となり、ヒカルの鼓動も高鳴ってきた。


22日ノースショア全域に大波警報が出された。やっときたビッグウェイブであった。日本付近が強烈な冬型になると、低気圧が日本を抜けてアリューシャン列島当たりで台風並に発達し、ノースにビッグウェイブを運んでくる。その波動がワイメアの珊瑚礁に乗り上げ、まるで山が生きているかのように大きな盛上がりを作り出す。今日はサンセットやパイプラインでもビッグウェイブがヒットしており、世界各地から集まったサーファー達がセッションをくりひろげていた。ギャラリーもかなりの人数に達しており、マスコミもごった返していた。


とうとうクリスマス当日の25日がやってきた。ノースはどうなのか?前日の穏やかな天候が嘘のように荒れ果て、サイズもかなりアップしている。幻のビッグウェイブが次々とワイメアにおそいかかっている。大波警報が引き続き出され、上空にはヘリコプターが旋回し、陸上にはポリスが警戒を呼びかけている。サイズにして40フィートから50フィートはあろうと思われる。


クリスマスの聖霊された波、しかもまれに見るモンスターウェイブ。奇跡としか言いようがない。ヒカルはワイキキからワイメアに入った。雨が降り、墨をひっくり返したような空は恐ろしい程不気味だった。ポリスが警戒しており、海にはだれもいない。入れば即逮捕される。


荒れ狂った波を雨がコーティングするかのようになだめている。そのせいでモンスターウェイブが奇麗にそそり立ち、波しぶきが波の後方に大きく流れ尾をひいている。かなり強いオフショアが吹きあげているように見えた。さすがにライフガードの水上バイクも出る幕がない。


そんな中、一人のサーファーが海へ飛び込んでいった。なんとパドルでゲティングアウトしている。スープで10フィートはあろうか。そこを抜けようとしているこの男は狂ってるんじゃないか。ヒカルはつぶやいた。その瞬間スープの間から真っ赤なボードが見えた。あれは宮崎で見せてもらったサカモトのボードだ。

「サカモトー!」ヒカルは叫んだが、波の音に無残にもかき消されてしまった。ヒカルは慌てて連れのライフガードを探した。頼みたおしてやっと水上バイクを出してくれることになった。ポリスに見つからないようにウエットに着替え、9フィートのガンを運びだした。

かなり危険だが水上バイクに二人乗りでサカモトのポイントまで運んでもらうことにした。


遥かかなたの水平線が波うっている。ワイメア一帯を呑み込まんばかりに追し寄せている。サカモトは何回も波にのまれながらもパドルアウトしている。ほんとに馬鹿としかいいようがない。


そんなサカモトを救出できるように、水上バイクでヒカルは追いつこうとしていた。間近でみる波は山のように大きかった。


格闘の末、1時間は経過しただろうか、ヒカルもやっとサカモトに追いつき水上バイクから降りた。


「サカモトー、久しぶりだなー、相変わらず無茶するんだな」

「ヒカルか?お前こそ何してんだ!」

「お前と心中しにきたんだよ(笑)」

「今日はクリスマスだなー、サカモト!」

「メリークリスマスでも叫ぼうか」

「そうだな」


二人の会話もこれまでだった。


急にかなりのスピードで吸い上げられる感覚が走った。ちょっとのすきにモンスターウェイブが間近にせまっていた。

あわてたヒカルはアウトにパドルした。サカモトもすばやくパドルで波に向かっていく。

このままでは、波に呑み込まれてしまうのはまちがいない。二人とも振り返りパドリングにはいった。すごい勢いで波のトップに持ち上げられる。

オフショアもきつい。ここまでかという高さに上げられ二人ともテイクオフにはいった。


「メリークリスマス!」


サカモトはトップから滑り降り、チューブの中を駆け抜けていく。ヒカルは滑り降りる途中で強いオフショアに吹き上げられ、バランスを崩した。

サカモトも必死でヒカルがどうなったのか、まるでわからない。ヒカルは波にのみこまれ海底深くひきずりこまれた。


サカモトはボードをすて、ヒカルがのみこまれた辺りにもぐった。

しかし、なかなかみつけられなかった。何回か波の谷間をぬって必死で息継ぎを繰り返していた。しかし、サカモトもこんな波の中で続けていく自信がなくなってきていた。もうこれで終わりだと、最後の救出を覚悟してもぐった。波の泡と空の濁りで視界が悪い。一瞬、太陽の日差しが厚い雲の隙間から輝いた。


その時、サンゴの間に挟まっているヒカルを発見した。

急いで救出し海上へ出た。ヒカルの頭からは、大量の血が流れでている。かなり頭を打っているようだし、水ものんでいる。このままでは命があぶない。ライフガードの水上バイクが到着し、ヘリコプターを呼ぶことにした。海上からヒカルを引き上げ州の病院へ・・・・・・

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パームツリーが揺れる頃 @yasu1225

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