第5話
私の故郷はもう無い。いや、正確には無くなってしまった。
昔、私は獣人国の辺境の小さな集落でひっそりと暮らしていた。辺境なのでなにもないのだが、とてもゆったり出来て、落ち着ける場所だった。朝起きたらご飯を食べ狩りに出て、夕飯の分を獲ってくる。昼になると木陰に座って本を読み、少しだけ昼寝をして、魔法や体術の勉強をする。夜は家族で机を囲ってご飯を食べながらお喋りをして、兄弟の遊びに付き合ってあげる。寝る前にお気に入りの恋愛小説を読む。そんな、平和でこの先変わることがないと思ってた日常は突然、崩れ去っていった。
「今日は魔法の練習にのめり込み過ぎたな。もう先に夕飯の用意は出来てるんだろうか。待たせてしまったかもな。」
ある日、いつも通り昼寝をして、魔法の練習をしていると、新しい魔法が使えるようになった。結構多めに魔力を持っていかれる魔法だったのだが、楽しくなって、辺りが暗くなるまでひたすら魔力を使ってしまった。
「早く帰って親に魔法の成果を見せよう。」
新しく覚えた魔法を両親に見せて誉めてもらおうと、小走りで村の方へ向かっていったのだが_
「ん? 変な匂いがするな。何かあったのか?」
村に近づけば近づくほど、明るくなっていく。
その時、頭に嫌な考えがよぎった。
「いや…まさか、な」
そう言って振り払おうとしても、ずっと残り続けてる。気がつけば村の方に向かって走っていた。
そして、自分の最悪の予感が当たっていることを目の当たりにした。
「な…なんだこれは。何で村が燃えているんだ!? 」
そこには真っ赤な炎に包まれている村があった。
崩れることのないと思っていた平和な日常が目の前で崩壊したショックが大きすぎて呆然とするしかなかった。
「ッは! 村の皆は!? 家族は無事か!?」
だが、いつまでも止まっていられないと考えた時には体が動いていた。
村の中央に進むにつれ炎が大きく、熱くなっていった。それでも奥に進んでいくと、衝撃の光景が広がっていた。
「え?」
村の中央では村の皆が惨殺されていた。そも周りには色んな魔物が集まっていた。
「っあ…あぁぁ……」
見たものが受け止められず、言葉が出なかった。
しかし、現実はこれでもかというくらいに目の前のものを突きつけてくる。
「ッあぁぁぁあああ!!!」
ただ、叫ぶことしかできなかった。
「ずっと続くと思ってたのに……そんな…」
魔物が私の叫び声を聞いて集まってくる。私は魔力がほぼ残っていなかった。体術だけでここにいる奴等を皆殺しにしようと走り出そうとした瞬間、
「リ…リィ」
後ろから声が聞こえてきた。
「お、お母さん? 」
物陰から血まみれの母親が出てきた。私は急いで駆け寄って抱き抱えた。
「い…きていたのね…良かった。」
喋る度に口から血が出てきた。
「もう喋らないで! 今背中にのせるから…」
そう言って少ない魔力を振り絞って、新しく覚えたばっかりの狼の姿に変わる魔法を使おうとした瞬間
「き…いて、リリ…ィ。私…はもう長…くない。」
「喋らないでって言ってるでしょ! 聞きたくない! 絶対助けるから!」
「まも…のが向かってき…てるんでしょ…? あな…ただけで…も逃げ…て…」
抱き起こしている母がどんどん冷たくなっていくのを感じた。
「いや…いやだ…」
「ま…ものと戦う…のはだめ…よ。にげな…さい。」
「いやぁ…お願い…喋らないで」
もう焦点があってない。喋る度に出てくる血の量も少なくなっていた。
「もう…じ…かん…ね。変身の…魔法…おぼえ…たのね…。す…ごいわ」
「いいから…もう、いいから…」
「生まれ…てき…くれてあ…がとう。じま…んの子だっ…た…わ…」
「お…かあ…さん? 」
呼び掛けても返事は来ない。腕の中の母親が冷たい。体が重くなった気がする。
「ぁ…ぁぁッッッッッーーー」
私は泣きながら走った。母親に言われた通りに魔物と戦わずに、振り返ることもなく。
そして、この日決意した。魔物をこの世から殲滅させる手段を探して村の皆の仇をとると。
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その事件から数年後………
「くそっ…ここも駄目か。」
私は旅をしながら色んな街に滞在し、殲滅の方法が載っている本を探していた。
ここはアクバラの街というところで、そこそこメジャーな街だ。流通もしっかりしているということでこの街に入ったのだが、魔物を殲滅する手掛かりとなる本は1冊も見当たらなかった。
「ここにもないのか…また別の街に移動するか。」
こんな感じで、特別急いでいる訳でもないのだが、出来る限り早く村の皆の仇を討つために街を転々と移っていた。
「とりあえず食料を買って…代えのマントも買っておくか。」
私は普段からマントを着るようにしている。何故なら人間には獣人を好まない者が多いようで、奴隷として扱われることも多々ある。獣人の子供などが街中を歩いていたら奴隷商などに拐われて商品にされるケースもあるらしい。
そんな面倒ごとには巻き込まれたくないからな。
そんなことを考えながらマントを買った。
その後、しばらく旅に必要な物を買い漁って宿を出た。ちなみに、冒険者登録をしているのでお金は適当に稼いでいる。
「さてと…どの街に行こうかな」
各街には周りに出現する魔物から街を守るための外壁があり、出入り出来る門の前には門番が立っている。門を通るときには必ず門番に通行証か冒険者カードを見せないといけない決まりになっている。
列に並びながら次に行く街を考えていたら、私の番が来たようだ。
「通行証か冒険者カードを。」
私は懐から冒険者カードを出して門番に見せた。
「ふむ…。Aランクか。何故そんなにフードを深く被っているんだ?」
そう言って門番は疑ってきた。私は周りに見えないようにこっそりフードを取った。
すると、
「あぁ…そういうことか。取らせて悪かった。怪しい奴がいたら押さえるのが俺の仕事なんでな。」
「いや、気にするな。気を遣われるだけでも嬉しいさ。」
「そう言ってくれると助かる。人間は面倒臭い生き物だからな。通っていいぞ。」
「ああ。ありがとう。」
門番がいい人で良かった。過去に行った街で門番が獣人嫌いってだけで1時間近く門の前で立たされたことがあったからな。
「さて、どうしようかな。」
見渡すと辺りは少し暗くなっていた。どこの街に行くにしても今からでは野宿しないといけない。
「魔の森の近くにでも行くか。人間があんまり寄ってこないだろうし。」
あそこならコカトリスも捕れるから食料には困らないだろう。そう考えて歩き始めた。
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「ここら辺でいいか。」
見渡す限り平原が広がっていて、人影が一切ない。
「ひとまず夕食の準備をするためにコカトリスを獲ってこよう。」
そう言って森に入って数分後、コカトリスを捕まえることに成功した。
「さっさと血を抜いて、内蔵を取るか」
最近こうやったほうが美味しいと分かってめちゃくちゃ練習した。お陰様でアクバラの街に来る前の野宿で、これでもかというくらいコカトリスを捕まえて食べた。その反動でアクバラの街に入ってからは自炊することなく毎日宿屋で食べたり、酒場で食べたりした。
そんなことはさておき、下処理が終わったので火を起こして焼いて食べようと思い、街で買い物をした際に買っておいた魔石を取り出して、拾ってきた枝に火を付けた。
この魔石は割ると火を起こすタイプで子供でも簡単に出来る。
一応、生でも食べれるのだが、火がある時は焼いて食べたいからな。
そうして、夕食に移った。
ーーーーー
ーーー
ー
「ふぅ…美味しかったな。」
コカトリスを食べたことでお腹一杯になった。この後は特にすることもないし眠いのでので、もう寝ようかとしたその瞬間_
コロコロ……
目の前にどこからか木の実が転がってきた。
それに気をとられていると、
ガバッ
頭に何か袋みたいなものを被せられた。
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