第3話


「まだか? もう出来たんじゃないか?」


「まだだ! そんなに焼いてねぇだろ!」


「もう我慢できないっ!」


「あ、バカ! それはまだ・・・」


「あッづッッッ」


「当たり前だろ!? 焼いたばっかじゃねぇか!」


洞穴の前から移動してきた俺達はさっきリリィが捕ってきたコカトリスを焼いている途中なのだが…


「まだか!? まだなのか!?」


「あぁ、もう! ちょっと待っておけ!」


「今冷ましてるだろうが!」


「早く作ってくれ! お腹空いて死にそうだ!」


「ちょっと待てってば!! 急かすな!静かに待てないのか!?」


誰か隣の人を黙らせておくことって出来ないのか?さっきから人に焼かせておいて急かしやがって。

絶対後で後ろからいきなり耳か尻尾触ってやる。


そんなことを一人で誓っていると、


「もーらい!」


「あっ! お前それ俺の肉!」


不意に俺の方へ伸びてきた手が、冷ましておいた俺の分の肉をかっさらっていった。


「このやろう…人が取っておいた肉を…」


モグモグモグモグ


…絶対後で泣かす。


もう肉を焼くのを諦めて木の実を食べようと木陰から集めておいたやつを引っ張り出した瞬間 、


「なっ…お、おい。その実はどこから採ってきたんだ?」


「ん? これのことか? お前と会う前にそこら辺の木に生えていたやつを適当にもいだだけだが。」


「その実を適当に!?」


「な、なんだよ。欲しいって言ってもあげないぞ。肉食っただろ、お前は。」


俺がそういうと、


「なっ」ガーン


露骨にショックを受けていた。


「な、なあ。1個くらいくれてもいいんじゃないか? そんなに一杯あるんだし。」


「俺の肉を食った罪はでかいぞ。そこら辺で拾ってこい。」


「そ、そんなことを言わずに…1個くらい…」


「逆に何でそんなに欲しがるんだよ。適当に歩き回ってたら採れるものだぞ?」


「何を言ってるんだ? その実がなる木は魔力を感知して姿を消すんだぞ? 一部を除いて魔力がない人間などこの世界に存在しないからな。」


もしかして、俺はあっちの世界から来たばっかで魔力がなかったから見つけられたってことか?


「それだけじゃない」


「まだあるのか?」


俺がこの実って凄いんだな~なんて考えていると、


「木の実を食べると魔力が大量に入ってくる。」


「へぇー。それは凄いことなのか?」


「は? 本気で言っているのか? 生物が持てる魔力は生まれながらでほぼ決まるっていうのが常識だろ? 学校で習わなかったのか?」


すみません。この世界来たばっかりなんで。


「って待てよ。だとしたら俺がこんなに持ってるのってやばい?」


「当たり前だろ!? 見つけられるだけでもおかしいのに、たくさん採れるとなったら狙われるぞ。」


「えぇ…やだなぁ。3分の2くらいここで食べて持っておくか。」


そう言って食べ始めようとしていたら


ジーーーーー


めちゃくちゃ食べたそうに見てるやつがいることに気づいた。


「そんなに食べたいの、これ?」


「当たり前だろう! な、なあ。1個でもいいからくれないか? 頼む…」


「うっ…」


捨てられた子犬みたいな上目遣いでこっちを見てくる激レア種族の狼さん。威厳もなにもないな…


「分かった。」


「っくれるのか?」


「条件をつけよう。」


「いいだろう! なんでも言ってくれたまえ。」


「じゃあ、"俺に魔法と体術を教える先生になる"っていうのはどうだ?」


「それだけで良いのか!?」


「まだだ。あと一つ条件がある。」


「ごくっ。そ、それは…?」


恐る恐る聞いてくるリリィに俺はこう告げた。


「"好きなときに好きなだけ耳と尻尾を触ってもいい"っていうものだ。」


「なっ!?」


ぼひゅッッッ


「ま、ま、待ってくれ。それだけは待って欲しい。」


「お? なんだなんだ? 許可してくれないのか? 良いのかなー。」


「ち、違う。お前はその意味を理解しているのか?」


「え? 何か意味とかあるのか?」


そんな意味とかラノベにあったっけ? あっちの世界で読んだ時に見たことない気がする。


「はぁ…やっぱりか。」


「?」


「この件は一旦保留にしたらダメか? これを言うのは少し勇気がいるんだ。」


「お、おう。」


そんなに大事な意味があったのか…初めて知ったな。


「まあ、木の実はあげよう。沢山あるから減らさないといけない。流石にこの量は持ち運べないから

な。」


そう言って木の実を一つ投げ渡した。


「やった…初めて食べるな。少し緊張する。」


「ははっ。以外と美味しいぞ。」


「お前はよく、そんなにバクバク食べられるよな。私には真似できん。」


そうか? 普通の果物みたいなもんだろ。まあ、価値観が違うからなんとも言えないけど。


そんなことを思いながら俺達は木の実を消費していった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ふぅ…結構食ったな。」


あれから15分くらいだろうか。ひたすら黙って食っていたのだが、思ったよりも時間が掛かってしまった。本来はもう少し早く食べ終わる予定だったのだが…


「おぉ…甘いな。もう食べることはないんだろうな…」


こいつが1個ずつ時間を掛けて食べるせいで、採ってきた量の8割は俺が食べた。

ってか…


「いつまで同じやつを食べてんだ!? それ2個目のやつだろ!?」


「むっ…こんな貴重なものお前みたいにバクバク食べられるかぁ!」


「それにしても遅すぎるだろ!?」


「だ、だってぇ」


「だってじゃねぇ! とっとと食って移動するぞ!」


「くっ…もうお別れか。美味しかったな…」


ようやく2個目を食べ終えたリリィが腰を上げた。


「さて、ここからどこに向かって進もうか? どこかいい場所はないか?」


「そのことなんだが…」


急に語彙を萎めて喋り始めるリリィ。どこか寂しそうな雰囲気が漂っている。


「今私はとある事情があってな、ここから先一緒に動けないかもしれないんだ。」


「…え? な、何言ってんだ? 」


事情? そう考えた時にふと、足を怪我しているのが見えた。そういえば、最初に狼の姿で会ったときに

足から血が出ていたのを思い出した。


「何か危ない用事なのか? な、何か俺が手伝えることとかは? 」


俺がそう言うと、


「…すまん。お前には何も関係ないことだ。巻き込むことは出来ない。」


そう言ってリリィが淡く光だし、狼の姿になった。


「せめて高いところまでは送ってやる。背中に乗れ。送った後はさよならだ。」


「っ…それしかない、のか」


「ああ。どうしても巻き込めない用事なんだ。食料を分けてくれたことには感謝している。」


そう言ってリリィは目の前で伏せて乗りやすいようにしてくれた。


俺が沈んだ表情で俯いていると、


「ははっ。何だその顔は。これで会えなくなるって訳じゃないんだぞ? 運が良ければまたどこかで会えるさ。」


「そ、そうか。そうだよな、うん。」


そう呟いて、リリィの背中に乗ろうとしたその時_


「おい、こっちだ!いたぞ!」


そんな声が少し離れた所から聞こえた。


「な、なんだ? 人か?」


急に聞こえてきた人の声に驚いていると・・・


「チッ…もうここまで来たのか。おい瑛斗! 早く乗れ!」


俺は言われるが儘、急いで背中に乗った。


「余裕がないんで少し飛ばすぞ! しっかり掴まっておけ!」


「お、おう。」


そう叫んでリリィが走り出した。すると、驚くほど速く景色が変わり始めた。


「は、はぇぇぇーーー!!!」


一体何km出てるんだこれ? 車より速いんじゃないか?


そんなことを考えていると、


「ほら、着いたぞ。ここなら遠くまで見えるから、行きたい所に行くといい。」


気づかない内に目的の場所に着いていたらしい。


リリィから降りると、すぐに立ち上がって何処かに行こうとしていた。


「ま、待てよ! 本当に会えるんだろうな? 約束だぞ? 無傷で用事とやらを終わらせてこいよ!」


すると、


「…当たり前だろ? すぐ終わらせるさ。」


僅かに苦しそうな表情でそんなことを言ってきた。

やっぱり呼び止めた方がいいんじゃないか? 頭の中をよぎったそれを口に出そうとした瞬間、声が聞こえた方に走り去っていった。


俺はそれを呆然と見つめることしかできなかった。




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