第2話


「えっと…すまなかったな。あー…」


「瑛斗だ。」


「そうか。私の名前はリリィだ。」


「よろしく」


組倒されていた状態から戻り、洞穴の外に出て謝罪された。


洞穴が暗くて気付かなかったが、リリィと名乗った少女は凄く綺麗な子だった。


腰辺りまであるサラサラな白髪に、透き通った水色の目。声は凛々しく、芯が通っていて聞きやすい。身長は俺より少し小さいくらいか。大体170ちょいってとこか。

そして、何を食べたらそんな感じで育つんだって思うくらいスタイルがいい。スラッとしているのに出るところはちゃんと出ている。


ただ、唯一気になるところがあった。


それは・・・


「何だ?私の頭に何か付いてるのか?」


そう。この子、ふさふさな耳と尻尾が生えていた。


え、なに。獣人ってやつ?初めて見たんだけど!

めっちゃ触りたいんだけど!


「あの…差し支えなければお聞きしたいんですけど…」


「何故急に敬語になったのかは知らんが、何だ?」


「その耳があるってことは獣人ですよね?」


そう聞いた瞬間、一気にリリィの雰囲気が変わり空気が重くなった。


「だとしたら…何だ?お前も結局は獣人差別か?今まで会ってきた奴ら皆そうだったからな。」


「あっ、違います違います!僕はまだこの世界のことを知らないので、興味本位で聞いただけなんです!」


「…へ?」


目の前でリリィがぽかーんとなっている。


「むしろめちゃくちゃ好きです!あっちでは絶対触ることの出来ないふさふさ感のある動く耳と尻尾!

それらを見た瞬間にどこからか出てくる触ってみたいという欲求!ラノベを読んだことがある奴だったら絶対、読んだことない奴でも本能で触りたくなってしまう様な人類のロマンが詰まりに詰まった究極の部位!ってことで触らせて頂いてもよろしいでしょうかぁぁぁぁぁ⁉」


迷うことなく土下座を敢行した。


ここまでの時間、僅か5秒。流れるような動作で土下座まで行った。


ケモミミが触れるんだったら土下座くらいしてやんよ!!!


そんな事を考えていると……


「ふぇっ⁉」


と、凛々しさを微塵も感じさせないとても可愛らしい声が上から聞こえてきた。


その声の主が気になって顔を上げてみたら、


ボシュゥゥゥ


真っ赤だった。茹でダコと思うくらい真っ赤だった。


「え?だ、大丈夫か?」


「い、いきなり何を言うんだお前は!?まだそういうのは付き合ってからで…」モゴモゴ


後半何て言ってるかさっぱり聞こえなかった。


「え?何て言った?」


「何度も言わせるな!鬼畜かお前!?」


「本当に何を言ったの!?!?」


ただ聞こえなかったから聞き返しただけなのに…

ここまで反応されると何を言ったか凄い気になるんだが・・・


後でもう一回聞こうと考えていると、


「瑛斗、重要なことを思い出した。」


急にリリィが真剣な顔で喋り掛けてきた。


「な、何だ?」


少し緊張しながら聞き返した。


リリィはこの世界の住人だ。そんなリリィが重要って言うくらいだから、聞いておいた方がいいだろう。


緊張した面構えで次の言葉を待っていると・・・


ぐぅぅぅ


と目の前の女の子から音がなった。


「お腹すいた。」


「は?」


「お腹すいた。」


えぇっと、何を言ってるんだろうかこの子は。

緊張して構えていた俺の気持ちを返せ!!!


「何か採ってくる。」


何て自由なんだろうかこの子は。

かつてここまで自由な人に会ったことはあるだろうか。いや、ない。


頭の中でそんな風に一人でふざけていると、ふと、さっきの鶏モドキの骨が視界に入った。


「はっ!そういえば、あの狼が近くにいるんだった。この洞穴が住み処だったら危険だな…

リリィ、ここを離れよ…」


そこまで言葉を発して振り返ると、


自分の顔の3センチくらい先に顔があった。

綺麗な水色の目、真っ白な体毛に少しだけこびりついている血、鋭い犬歯。

自分の記憶が間違っていなければ確か、さっきの狼だ。そいつが鶏モドキをくわえて立っていた。


あれぇ?げんかくかなぁ?


混乱しすぎて頭がバカになっていると、急に目の前の狼が淡く光だして縮み始めた。


え!?なになに!?何がおきてんの!?


そんな感じでパニックになっていると、


「…ふぅ。」


と、淡い光が収まると共にリリィが出てきた。


ほぇ?


もうダメだ。頭で処理する情報が容量をオーバーして、キャパオーバーした。自分でも何を言ってるか全く分からん。


頭の中がぐるぐるしてフリーズしていると、


「ん?どうした?そんなところで固まって。」


なにがどうなってるんだろ?おおかみがひかった?

わぁーい、きれいだなー。


「おーい、大丈夫か?戻ってこい。」


こっちのせかいのおおかみはひかってちっちゃくなるんだぁ、すごいなぁ。


パァンっ


いきなり目の前で破裂音がなって、それが手を叩いた際に起きたものだと理解するまで3秒掛かった。


「…ッは!?狼は!?俺、死んだのか!?お腹の中か!?」


「ったく、落ち着け。お前は死んでもないし、喰われてもいない。」


「じゃあ何が起こった!?お前が狼倒したのか!?」


「いい加減落ち着け!」


スパンっ


頭を叩かれた。そのお陰で少し落ち着いた気がする。


「どうだ?落ち着いたか?」


「っあぁ。もう大丈夫だ。」


「うむ、それは良かった。さ、食うぞ。」


と言って鶏モドキの首を掴んで持ち上げ、手を横に一閃した。


すると、


ピュー


と勢いよく血が出て来て、辺りに飛び散った。


わあすごーい。便利な技だなー。


「ってちょっと待てぇい!」


「ん?どうした?」


「ん?どうした? じゃねぇよ!え、なに?ツッコミどころ多くない!?」


何か普通に流されてご飯を食べる流れになってるけど絶対おかしいところあったよね!?


「さっきから騒がしい奴だな。まだ何かあるのか?」


「俺が悪いの!?ねぇ、俺が悪いの!?」


「何が聞きたい?お腹すいてるから早く食べたいんだが。」


「あ、はい。すみません。」


とりあえず謝っておいた。何が悪かったのか全く分からんけど。


「えーっと、もしかしてさっきの狼ってお前だったのか?」


「そうだが何か?」


「この世界の狼って皆あんな感じなのか?」


「んなわけあるか。こんなこと出来るの私の一族くらいだ。」


「え、なに?もしかして結構珍しい種族の方なの?」


「そうなんじゃないか? 六大幻種族の内の一つだからな」


六大幻種族?なにそれ?質問しているのに新しく謎が増えた。後で聞こう。


「じゃあ次。鶏モドキの首どうやって切ったんだ?そしてどうやって食べるつもりだ?」


「質問が多いなぁ。そんなもの適当に手をピッと横に動かしただけだ。それくらい出来るだろ。このコカトリスはそのままだが?」


この鶏モドキ、コカトリスっていうのか。へぇー。

そして、もう理解するのは諦めよう。うん。俺にはまだ早かった。

適当に手をピッ?何を言ってるのかな?


「って、え? そのままで食うの?焼いたりせずに?」


「そうだが? 火の起こし方よく分かんないし。面倒くさいからな~」


なんだろう。種族的には問題ないんだろうけど美少女が生で鳥の肉を食べてる絵面は結構きつい。ってか見たくない。

絵面を想像しようとしている脳と必死に戦っていると、リリィが手で鷲掴みして口に運ぼうとしていた。


「ストーップ! 待て待て! 俺にそんな光景を見せようとするな!火は俺がさっき使っていた場所にあるから。そこまで行こう! な? な? 」


「むぅ…。しょうがないそこまで行ってやるか。」


「よし。じゃあ移動するか。」


「うむ。その方が奴らの足も撒けるかもしれないしな」ボソッ


「ん? 何か言ったか?」


「いや。何も」


「そうか。ならいいや。」


そう言って俺たちは移動を始めた。


この時、俺は考えもしなかった。この後に起こるトラブルに巻き込まれることを。



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