3
あの後とりあえず雨宮先輩と連絡先を交換した。泣いてしまった理由は未だによく分かっていない。
あれから1週間
「聖来、あんた何かあった?」
「え?」
鍵が壊れてた屋上でお昼を食べていると風美が突然聞いてきた。
「確かにー!何か最近の聖来生き生きしてる!」
それに咲良も同意する?
「何もないよ。」
変わった事といえば放課後のピアノの練習を雨宮先輩とやり始めたことだけだ。
「あれ?もしかして、聖来鈍感?」
まさかの咲良からの言葉に驚く。
「どこが!?」
「いや、聖来今恋する乙女よ?」
「ハイ!?」
恋!?私が!?
そして、突如として思い出される雨宮先輩の顔。
耳まで真っ赤になるような気がした。
私が....雨宮先輩の事.....す、好き!?
それを見て確信を得たのかこういう話が大好きな咲良がここぞとばかりに聞いてくる。
「誰?誰?先輩?同級生?もしかして年下!?」
あまりの剣幕に思わず身を引く。
「まぁまぁ、咲良落ち着いて。」
風美が身を乗り出して聞く咲良の体を座れせる。
「風美だって気になるでしょ?」
「まぁねー。」
「待て待て待て。」
目の前で謎の同盟が組まれる予感がしたので一応止めておく。
「誰だろう?佐々木?加藤?あ、3年の葉月先輩もイケメンだよね。1年だったら女子の間で今騒がれてる堀内君?」
咲良がつらつらとイケメンだと噂されている人たちの名前をあげる。でも、そこに雨宮先輩の名前がないことに驚いた。あの顔はどう見てもイケメンの部類に入る顔だし性格だってめっちゃ優しい。咲良や他の生徒の目に止まらないのはなにか事情があるのだろうか。確かに、今まで校内で先輩の事を見かけたことはない。
「そん中の誰でもないし、まず好きな人....ぽい人はいるけど。それよりさ、咲良はどうなの?風美も。いないも?好きな人。」
話題をそらすとすぐにそちらに移ってくれる2人。ホッと息を吐きながら頬を赤らめる咲良をからかう。
そんなこんなしてるうちにお昼休み終了のチャイムが鳴りお開きとなった。
「自分が思い描いている音を想像するんだ。」
「想像....ですか?」
「うん。」
その日の放課後。私はいつも通り音楽室で雨宮先輩から指導を受けていた。
先輩はその音を想像すると言ってるけれどいまいち分かっていない。
「小説を読むときとかって読みながらその場面を自分なりに想像するだろう?」
「はい。」
「それと同じだよ。」
なるほど....少し分かった気がする。
「じゃあ、先輩は弾く時どんな事を思い浮かべてるんですか?」
少し間があいて先輩が口を開く。
「俺?俺はね好きな人の事だよ。」
ちょっとだけ恥ずかしそうに先輩は言った。
「え?」
「別に彼女とかじゃないんだけど、幼馴染で。向こうは俺のそんな気持ちに気づいてなさそうだけど。」
そう慌てて弁解する先輩を見て胸が痛んだ。
あぁ、こういうのを失恋っていうんだろうな。
やっぱり、私は先輩の事好きだったんだ...恋愛なんてしたことないけど....たった1週間前にあった人の事を好きになるなんて。私って意外と単純なのかな.....
「その、幼馴染の人と一緒にいなくても良いんですか?」
思わずそんな事をきいてしまう。意地悪な質問だって分かってる。その幼馴染の人に嫉妬した。完全なる八つ当たり。
「まぁ、離れちゃったからね、俺が。」
「離れた?先輩、この街に引っ越してきたんですか?」
私が聞くとなぜか納得のいかなそうな顔で先輩はうなずいた。
「さぁ、話がそれたね。」
先輩が手を叩いて話を戻す。
「俺はこの曲の場合その好きな人が...不謹慎だけど死んじゃったらって考えて弾いてる。俺だったら耐えられない。この曲はその人の死から立ち直って終わるけど、俺は立ち直れないなって考えたら四ツ橋がいう優しい音?になった。」
大切な人が死ぬなんて考えてもいなかった。
私はどうだろうか....お母さん。お父さん、咲良、風美......大切な人をあげていたらきりがない。
「分かりました....ありがとうございます。頑張って想像してみます。」
ちょうどそこで最終下校時間を告げるチャイムが鳴った。
「うん。今日はこれくらいにしておこうか。それじゃあまた月曜。」
そう言ってカバンを持って先輩は先に出る。いつも、先輩は先に出ていってしまう。そして、私が追いかけたときにはいつも先輩は廊下にいないのだ。
私は部活で残ってるはずの風美と合流して一緒に校門を出た。
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