第12話 生還
カミラを抱えて墳墓から外へと出た時、グーリットの警備連隊の小隊が到着していて、彼らを動かしたのは評議員のヴィンセント卿だとわかった。
ヴィンセント卿が俺を見て駆けつけてくる。
「エリオット! 無事か!」
「見ての通り。だけど
「ともかく無事ならそれでいい。逃げてきた人達はこちらで保護したが、内部はどうなっている?」
「死体の確認をする暇なんてなかった。化け物は倒したが……内部を全て把握していない。小隊では危険だろう」
ヴィンセント卿は頷くと、小隊の兵士に命じる。
「墳墓の入り口を封鎖! ……エリオット、馬を貸そう」
「助かる」
俺は馬の背にカミラを乗せ、手綱をもつ。
「聖女どのは大丈夫か?」
ヴィンセント卿が気絶している彼女の顔を覗きこんだ。
「力を使い果たして気を失っているだけだ。問題ない」
「話をしたいから、評議会館のほうに来てくれないか? 明日午後いちばんで頼みたい」
「承知した」
グーリットへと帰りながら、司祭を逃亡させてしまったことを悔やむ。
くそ!
-Elliott-
墳墓でアロセル教団グーリット支部の司祭が本性を現し、調査隊と護衛の傭兵たちを襲った事件は隠されることになった。
俺がこれをヴィンセント卿から聞かされたのは、墳墓での戦いを終えた翌日の午後いちばんに評議会館を訪れた時だ。
俺は、同席しているパトレアの表情を見て口を開く。
「ヴィンセント卿、俺は別に構わないが彼女が納得していないように思うけど?」
「納得せずとも承知してもらう……アロセル教団の司祭が
「俺もだ」
「仮に、これを公にした場合、教団の真面目な聖職者たちまで心ない視線、言葉を投げかけられて……墳墓には腕試しや金品狙いの傭兵崩れの冒険者たちが集まる可能性もある。教団もグーリットもそれは望んでいない」
「わかった。俺は一市民でしかない。貴方の意見、決定を尊重する」
「わたしも上の判断が下されていないので、ここは評議会議員のヴィンセント卿に同意します」
「ありがとう。恩にきる」
ヴィンセント卿は感謝を口にし、怪我をした傭兵や調査隊の人間には見舞金を払うことで口止めしたとも説明した。そして、怪我で休養に入ったバーキン准教授とは昨夜のうちに会ったと言い、墳墓に関してを教えてくれる。
「功労者なので知る権利はあるだろう。話そう。あの墳墓は偽物だ」
パトレアが苦笑する。
「なんてこと……では、司祭……ネレス・デストは偽の竜王バルボーザの墓を守ろうとあんなことをしていたっていうこと?」
「さぁ、そこまではわからない。
ヴィンセント卿は、バーキン准教授から聞いた話を記した書類を眺めながら説明してくれる。
ケイ・バーキン准教授によると、あの墳墓は古代ラーグ時代に造られたもので、発見できていない隠し通路はまだ存在するそうだ。彼女が帝王の間と名付けた広い空洞は、竜王バルボーザを描いた壁面があり、たしかに竜王を信仰する者達が築いた墳墓のようだが、竜王が眠る条件のひとつ、エルフの森の近くというものを満たしていないことから、竜王はあそこにはいないらしい。あそこは竜王ではないが近い存在を奉った確率が高いそうで、墓になっているのは、生贄を捧げたとみるのが妥当だと……」
「……竜王に近い何かって、それはそれでやばい奴だろ」
「そうだ」
ヴィンセント卿は頷き、パトレアを見た。
「彼女を通して教団には報告をいれてもらった。また、私はミラーノの中央評議会にこの件を報告する人を走らせた。明日にはお達しが出るだろうが、グーリットとしてはこれから、ミラーノから補助金をもらう手続きを進めながら、大規模な調査隊を組織し墳墓を制圧する……同時進行でいきたい……が、実は東……レーヌ河城塞の東で帝国と戦争中で、有力な傭兵団はそちらに参加していることもあって、エリオットにはなんというか……」
「いいよ、やるよ。報酬は安くてもいい。いくら出せる?」
「一万は……ミラーノのほうから補助金が出たら増やせるがまだ約束できない」
「それでいい。依頼はヌリを通してくれ」
「助かる!」
「何人、集める?」
「十人が最大。総額十万がやっとだ……」
パトレアがここで口を開く。
「わたしも参加します」
「教団が許可するかな?」
「猊下はきっと許可くださると思います」
譲らない意志を煌めく瞳で示す彼女に、俺は頷きを返して、ヴィンセント卿に伝える。
「俺と彼女は必ず参加する。あのネレスとかいう司祭を逃がした責任をとりたい」
「よろしく頼む」
次の仕事が決まった。
報酬目当てではないけど、必ず成功させたいと思う。
ただ、ネレス・デストを捕まえるだけではない。
竜王バルボーザだと勘違いされるほど、危険な何かがあの墳墓にはいる。隠された通路の先に、そいつは眠っている。
万が一、そいつが目覚めたらと思うと……。
しっかり準備をしよう。
幸い、バーキン准教授の代理がミラーノ大学から来るまで数日かかるそうなので、人集めと装備の準備はしっかりとおこなえる。
評議会館を出ると、パトレアに呼び止められた。
「ありがとう、運んでくれて」
「いや、神聖魔法、助かったよ」
「それで……会いました?」
「は?」
「カミラと会いましたか?」
パトレアは、もう一人の自分を認識しているようだ。
誤魔化してもしょうがないので頷いた。
「会った」
「失礼なことは言いませんでしたか? よけいなこととか?」
「いや、なかった……乱暴な口調だったけど」
「わたしのことで、何かおかしなことは言ってませんか?」
「彼女が出てきている時、君は記憶がないんだな?」
「ええ、あっちはあるのに、わたしにはないんです」
どういうことだろう?
「特に変なことは言ってなかった」
「そう……ですか」
「じゃ、準備を終えたら声をかけるから」
「あ! あの……」
なんだろう?
「ご飯……作りに行きます。今日……夕方……」
また店で食べてもいいと思い、そう誘ったけど彼女はかぶりを払った。
「ちゃんとお礼をしたいんですけど……お金がなくて……せめて作らせてください」
「……わかった。じゃ、待ってるから」
「はい!」
俺は、子犬が喜んで走るように支部へと戻っていく彼女を見送った。
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