20.桜が散る卒業式
少し遅く産まれただけなのに、私と先輩の間には大きな壁があった。なんでも知っていると思っていたのに、全然知らない。
一年早く卒業して、私だけが取り残された中学校。先輩は高校に進学して、私の知らない一年間を過ごしていた。
その一年は物凄く長かった。やっと思いで高校に進学すると、先輩の隣には別の人がいて。私は酷くショックを受ける自分に驚いた。
先輩は高校を卒業したら町を出て東京に進学を決めている。同じ町の中学と高校だけで、知らないことが増えたのに、東京に行ってしまったら別人に変わってしまうのかもしれない。
今、三年生だけの卒業式が始まっているんだろうなぁ。
窓際の席に座りながら、散っていく桜を眺めている。二年生の教室には、部活動に入っている生徒たちが数名残っていた。みんなお別れの挨拶をするために残っている。
「卒業式終わったって!」
偵察に行っていたクラスメイトが教室全体に響き渡るように言うと、各自玄関に向かっていった。これから三年生は最後のホームルームをしてアルバムに寄せ書きをしたり、写真を撮ったりするのだろう。
私も教室にいるよりも、玄関で先輩を待つことにする。高校では部活に入っていなかったし、もしかしたら早めに帰るかもしれないから。
数十分、壁にもたれながらスマホをいじっていると、目当ての人物を歩いてくる。
「せんぱ……ぃ」
声を掛けようと思った。けれど私の声は徐々に小さくなるばかりで、雑踏としている場ではいとも簡単に消えてしまった。
卒業証書を持ちながら楽しそうに笑っている二人。目はうっすらと赤みを帯びていて、泣いたんだなとわかる。
今、二人の間に自分から入っていく無粋な真似なんて出来るはずがなかった。
「あ! 咲! 来てくれたんだね!」
「はい! もちろんですよ」
私は笑顔を貼り付けて先輩たちに近づいた。
「写真撮ろう! 制服を着るのも最後になっちゃうし」
私は二人の間に入ってカメラに向かって顔を作る。物理的には私の方が先輩と近いけれど、私なんかよりもずっと彼は近い存在なんだろうな。
「後で送るね、咲」
私は頷くことしかできなかった。本当は今日、自分の気持ちを伝えるつもりだった。けれど、雰囲気を壊したくないから私は黙って見送るしかできない。
「それじゃ、私は帰ります」
「うん。気をつけてね」
逃げるように学校を出て、儚く散った桜の上を歩いていく。
友達として好き。人間として好きだった。でも違ったんですね。
同じバスケ部で、面倒見が良い先輩だなと思ったし、尊敬もしていて。
けれど先輩の隣にいる彼氏を見た時に気付いたんです。
同性だけど、先輩を恋愛として好きになっているって。
この気持ちが、恋愛として好きだと気づくまで随分と時間が掛かったな。
もし気付くのが早ければ……うんん。結末はきっと変わらない。
幸せそうに笑う先輩を思い出して、そう思った。
ずっと前から好きでした。
気持ちでは彼氏に負けないくらい。
誰よりも、大好きでした。
ずっと隣にいたかった。
でも、あなたが笑ってくれるなら。
私はあなたの後輩としてずっと、ずっと思っています。
さよなら、私の初恋。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます