17.非通知の電話

「ママ〜、お父さんっていつ帰ってくるの?」

「何度も言ったじゃない。もう帰ってこないのよ」


 台所で晩御飯の準備しながら、何度言っても理解してくれない息子に言い聞かす。離婚してからもう一ヶ月の時が過ぎようとしていた。離婚の理由は、彼が浮気をしていたから。産後に相手をしてやらなかったのが原因だと、苦し紛れの言い訳を並べていて、心底呆れたことを今でも覚えている。


「でも、声は聞けるでしょ?」

「まぁ、電話がかかってきたらね」


 プルルル……


「きた!」


 見透かしように電話をかかってきた。どこかに盗聴器でも仕掛けているんじゃないかしら。


「知らない番号だったら出たらダメよ」

「わかった」


 息子は電話に手を伸ばし、ディスプレイにも表示されて名前を見て、私の方へとすり寄ってくる。


「これなんて読むの?」

「これは非通知って読むの。怪しい人からの電話だから絶対に出たらダメ」


 息子は父親の電話ではなかったことの残念そうに項垂れている。


 プルルル……


 今度こそと息子はスマホを手に取るが、また非通知と表示されていたようで、興味を無くしたようにスマホをソファの上に置いた。


「いつになったらお父さんから電話がかかってくるの」

「さぁ? 話したかったらお父さんの方から、いつか電話がかかってくるよ」


 包丁に映る私の顔は、醜く映っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る