11.痛さを我慢してでも

 窓を通して緑色に染まった葉っぱがひらりと落ちていく。僕は窓際の席で、机に肘をかけながら、その様子をただ眺めている。

 

 肘をついた方の手でそっと頬をなぞると、電流が走ったような痛みが襲った。


 寝不足でもお菓子を食べすぎた訳ではない。きっとストレスが原因だとはわかっている。けれど、解消の仕方はわからない。この落ち葉を眺めている時のように、ただ傍観者でいるしか出来ないのだ。


「一真! 新作持ってきたから試食お願い! 今回で最後にするから!」

 

 窓から声の主の方へ体を動かすと、心底嬉しそうに笑っている彼女がいる。手には綺麗にラッピングされた、チョコレートクッキーが数枚。


 学校が終わってから何日もクッキー作りをしているせいか、彼女の目の下には、うっすらと陰りが見える。


「もう何回も食べたし、大丈夫じゃない? 充分おいしいと思うよ」

「……明日が本番だから不安でさ」


 彼女は不安そうに、僕から二つ前の席を一瞥する。そこには誰もいないはずなのに、誰か思い浮かべているような、そんな遠い目をして。


「……わかったよ。今日は口内炎が出来てるから味がわからないかもしれないけど」

「うん! 素直な感想よろしく!」


 ここ数日、何度も試食したチョコレートクッキー。最初は歪だったものが、今は店に並んでいてもおかしくない綺麗さがあった。


 袋を開けてクッキーを取り出して口に運ぶ。最初はパサパサしていたのに、今はしっとりと美味しいものへと上達した。


 彼女を笑わせられるのも、彼女を頑張らせるのも、彼女を不安にさせるのも。

 僕ではない彼の役割だ。試食担当の僕では役者不足で、彼女の表情を変えられない。


「美味しいよ。これならきっと喜んでくれると思う」 

「ほんと⁉︎ありがとう一真! 明日は頑張るよ」

「おう。頑張れよ」


 跳ねるようにご機嫌に、彼女は教室から出て行って、この広い空間には僕一人しかいなかった。


 僕はそっと頬を撫でると、電流が走ったような痛みを感じる。

 

 この痛みは口内炎せいなのか。それとも……

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