12.吹雪いていても悪くない

「ねぇ、冬は好き?」


 マフラーを枕代わりにして机に突っ伏していると声が掛けられた。顔を上げると、そこには板野 風花(ふうか)。同じクラスメイトだが、たいして接点もない人物が、僕の前の席に腰掛けて、窓の外を見つめている。


「好きなわけないだろ。こうして好きな時間にも帰れないんだから」


 教室の中を見渡すと僕と風花の二人しかいなかった。吹雪いているせいで、登下校に利用していたバスが止まり、帰る手段は親の迎えしか残されていない。他の連中は相乗りなどをして帰ってしまったようだが、僕は親とも連絡がつかないし、帰る手段がなく途方に暮れていた。


 風花もその一人なのだろう。こうして話したこともない人に声を掛けるくらい、やる事がなく、暇なのだ。


「冬晴れって知っている?」

「天気が悪い日に、晴れている話をするのか」

「むしろでしょ。暑い日にあついってばかり言っていたら、余計暑いみたいな」


 僕は彼女のことを何も知らない。それはそうだ。ろくに話したこともないのだから。


 外はまだ五時にすらなっていないのに、暗くどんよりとしていた。風が吹くたびに窓が軋み、距離感の掴めない級友との沈黙を埋めてくれる。


「冬晴れって四種類あるらしいんだよ」

「へぇー、博識だね」

「たまたまだよ。昨日テレビでやっていただけ」


 穏やかに晴れている日を『冬日和』

 物凄く寒いけれど晴れの日を『凍晴』

 寒中の風がなく穏やかな晴れの日を『寒凪』

 晴天なのに雪が舞う晴れの日を『風花』


「四種類の冬晴れならどれが好き?」


 相槌を打ちながら聞いていると、彼女は僕の瞳を覗いて、問いかけてきた。


「そうだなー、僕は風花が好きかな」


 晴れているのに、雪が舞っている光景は、言葉に言い表せない程を綺麗だった。

 好きではない冬の季節も、その日だけは嫌いじゃない。


「……そうなんだ」


 彼女は一瞬。僕の方を向いて目を丸くしていたが、すぐにそっぽを向いてしまって、表情は隠れてしまう。

  

 胸ポケットに入れていたスマホが震え、親から『ついたよ』とメッセージが表示されて、僕は掛けていた鞄を持って席を立った。


「迎えが来たから帰るね」

「あ、うん。うちも直ぐに着くらしいから」


 マフラ−に埋もれた彼女の頬はほんのり赤くなっているように見える。


「じゃあまた学校で」

「うん。また学校で」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る