5.数学を学ぶ意味
「せいせ〜い、数学って何のために勉強するんですか? 足し算引き算ならわかるけど、関数とか勉強する意味わかんな〜い」
生徒の一人がそう言うとクラスの雰囲気も変わった。今まで授業に集中していた生徒たちも、近くの生徒と雑談を始める。
なんのための勉強するのか。僕も学生時代の時に何度もその問いについて考えたことがあった。多くの人は大学進学に使うツールにしかならない数学だが、数学教師を目指していた僕はその意味について自分の答えを持っている。
「よし! じゃあ、ちょっと待ってな!」
そう生徒に言い残して、職員室に向かった。関数の授業を始める前に、興味を持ってもらおうと思って、準備していた物がある。
教室に戻ると案の定騒がしくなっていて、授業どころではない。僕が教壇に立って例のぶつを置くと、生徒達の注目が一気に集まった。
「先生、それはなんですか?」
「これは、パラボラアンテナだ。家の屋根らへんに設置してあるのを見たことないか?」
生徒たちは「あー、あれかー」と思い出したように話し始める。
パラボラアンテナに針金を作った特注の装置を取り付けると、生徒たちは雑談をやめて、好奇の目を向けてきた。
装置の中心に卓球の球を乗せ、もう一つのボールを取り出した。
「いいか? よく見ておけよ」
適当な位置にもう一つの球を落とすと、パラボラアンテナを跳ね、真ん中に置いていたボールをはじき出す。
「おおすげー」
「いや、まぐれだろう?」
僕は球の落とす位置を変えて、二度、三度、同じことをやって見せても、結果は綺麗に真ん中に置いた球に向かってぶつかっていく。
もう偶然だと言い張る生徒はいなく、早く種明かしをしてほしそうな様子だった。
「このパラボラアンテナも、二次関数を使ってできています。簡単な説明にはなりますが、二次関数の特性を使えば、必ず同じ場所に反射して返ってきます。この卓球の球が電波だとすると、流れてくる電波はパラボラアンテナに跳ね返って、アンテナとして機能することで、家庭にあるテレビに映る仕組みです」
学ぶことに文句をつけていた生徒たちの姿はなく、みんな興味深そうに話を聞いてくれる。
「関数とは、 『xの値が決まると、yの値が1つに決まる関係』。タクシー料金や郵便物の料金も関数だし、世の中には数学がひっそりと生活しています」
僕は体内時計的に、もう授業が終わりそうな気がして、本日のまとめに入った。
「高校では数学のさわり程度しか学びませんが、数学に興味を持てば、大学に進んで、世の中の役に立つものを作るのもいいかもしれませんね。選択肢の一つとして覚えておいてください」
そうまとめると、丁度チャイムが鳴って授業の終わりを告げる。
「では、これで授業を終わります」
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