4.馬鹿にされても好きなんだ。

 給食を食べ終えた昼休みの時間。


 クラスメイトたちは体育館で鬼ごっこをしていたり、廊下でお喋りを楽しんでいる中、私は教室の隅っこで机に向かっていた。



 手に引っかかるような感触の紙に鉛筆を走らせる。頭の中にぼんやり浮かんだキャラクターが、少しずつ形になっていって、想像してよりずっと良い物が完成した。


 夢中になると時間を忘れる性格らしく、教室に時計を見ると、五時間目まであと五分もない。



 クラスメイトたちは続々と教室に戻ってきていて、私を秘密のノートを鞄の中に入れようとした。



「なに描いているの?」



 声がした方へ顔を上げると、同じクラスの男の子がいた。



「あ、えっと……」



 私は吃ってしまう。自然と開いていた秘密のノートを隠してみたけど、男の子を私が答えてくれるまで、自分の席に戻るつもりはないらしい。


 答えないのは、絵を描いていることが恥ずかしいという理由があるが、もう一つ、言いたく理由があった。


 それは、前に別の子に絵を描いているところを覗かれて、「こういうのってオタクっていうんでしょ?」と馬鹿にされたからだ。



「見せて」


「あ、ちょっと!」



 私のノートが取られてしまった。男の子は躊躇なくページをめくって、頷いている。無理矢理取り返すこともできないで、ただ座って読み終えるのを待っている。



 男の子は私のノートを返すと、目を輝かせながら。



「すげーな! 浅井ってこんな絵かけたんだな!」


「……キモくないの?」



 村上くんの圧力に押されてしまったのか、ぽろっと聞いてしまう。



「キモいなんかあるもんか! すげーカッケーよ! 俺、ファンになった!」


「……ありがとう」



 私は恥ずかしさからか、目を逸らしながらお礼を言った。



「村上、もう授業始まるぞ。席につけ」



 始業のチャイムがなって、村上くんは自分の席に戻っていく。


 


 先生は板書を始めるが、その日の授業は何にも頭には入らなかった。







「ご飯できたよー」


「わかったー。この作業終わってからいく!」



 受注したイラストの仕事をひと段落させるとリビングに向かった。彼は休日ということもあって、今日はご飯を担当してくれる。



「仕事はどんな感じ?」


「過去一番にいい出来だよ!」


「完成させたら見せてね」


「それはもちろん」


 


 ファン第一号は、今も隣で笑っている。


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