花火の花束
終わりは突然だった。
揺れ動く電車の窓から見えるのは、鼓動をする夜の街並み。
煌びやかな都心の風景はいつ見ても「圧巻」という一文字だけ。それこそ、何処かの都市の夜景は百万ドルとも言われるほど美しいらしい。けれど、自分自身もその血肉となっていたことを考えると、何とも言葉にし難い不思議な気分に晒された。
残暑を感じる九月。
突然、身体を壊してしまった。本当にひょんなこと。
こういうことがあるから、歳をとることは嫌いだった。けれど、この世の摂理だと言われて仕舞えば、それまでのこと。嫌でも仕方ないのだと飲み込まなければいけないのだ。
そして、会社を辞めた。
リタイアするにはほんの少しばかり早いような気もするが、老いぼれがいつまでも金を貪っていては若い希望に毒を与えかねない。丁度良い機会だった。そうかもしれない。
そんなことばかりを頭の中で何度も呟いて、納得させようと必死だったのかもしれない。視界には手に持った花束だけが映り、鼓膜が震えていることさえも気づかなかった。
ふと我にかえり、目線を上げてみると、もう終点間近に迫っている。共に揺られる乗客も両手で数えられてしまうほど少なくなっていた。
それでも心はここに在らず、といった感じで、幾つもの駅を逃した。もうとっくに最寄り駅は過ぎてしまってる。それさえも忘れてしまうほど。
けれど、それも「終点」というアナウンスに叩き起こされ、目を覚ますと急いで飛び降り、向かいのホームでまた帰りの電車を待つ。
ヒュゥー、パンッ。
ふと背後で爆音がした。眩い閃光と共に。
赤、青、黄色、緑、白、紫、水色。
様々な火花が四方八方に拡散し、夜空に花を描き上げる。
つい見惚れてしまった。数少ない駅に漂う人々もそんな光景に目を奪われているよう。
そんな時、手元の寂しさを思い出し、周りを見てみると、忘れ物をしていたことに気がついた。
あの花束を。
「全く、ついてない」
けれど、何となく、心は満たされていた気がした。
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