星海渡りの少女
星の器、光の水、遠く見えるは水平線、掛けるは天の河、其れを渡るは少女。静寂に包まれたこの世界を照らす光などない。あるのは星の囁きだけ。まるで、桃源郷の奥に広がる海のようだった。
少女が歩く度、その足元には小さな波紋が立ち、綺麗な円を描いて広がり、空を映す水面は朧げに揺れた。
「ねぇ、何処へ行くの?」
小さな星の精霊は言う。
「あの光を目指して」
少女は答える。
「あの光?」
「そう。水平線から顔を出してる、あの光」
一歩、また一歩進む度に波紋は広がる。でも、何処まででも広がるわけじゃない。揺れはいつか収まってしまう。
そんなことくらい、彼女は知っていた。何もかも、いつかは終わってしまうことくらい。
「なんで歩くんだい?」
星は聞く。
「前に進みたいから」
少女は答える。
「でも、君はここにいる」
「そうだね。だから、前に進むんだよ」
空には道標なんてない。ただただ、足元に広がる天の河を上るだけ。決して、道から外れてはならないのだ。
そんなことも、彼女は分かっていた。暗闇がとてつもなく怖く、恐ろしいものであることくらい。
「どうして進むの?」
或る一等星は尋ねる。
「もう時間だから」
少女は答える。
「なら、早く行かないとね」
「うん。道が消えちゃう前に」
気付けば、闇がゆっくりと少女を追い抜かして、光の方へと進んでしまう。それでも、ゆっくりと水面を踏み締めて歩いていた。
彼女はとっくに判っている。どうして自分が光を目指しているのかも。なんで前に進むのかも。何故進むのかも。そして、これの終わりがどう言うことなのかも。
「君はこれでいいの?」
彼女の前の光が問いかける。
「もう良いんだよ」
少女は答える。
「でも、君が願ったことだよ?」
「そうね。でも、終わりがなかったら、次もない」
空は笑い出した。それに合わせて、少女も微笑む。
すると、彼女は少しずつ足を大きく動かし、速く動かし、飛び跳ねてみたり、回ってみたりした。
「じゃあ、これでお別れね」
後ろに隠れていた月が背中を押す。
すると、途端に闇は光に吸い込まれ、止まっていた星が回り始めた。騒めきが聞こえる
水平線の向こうからゆっくりと太陽が顔を出し始め、水面は波を内出し、段々と光の道は消えていく。
「さようなら」
太陽が地上を照らす頃、少女の姿はどこにもなかった。
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