精霊の夢一夜

 それは、星降る一夜の夢。


 藍と黒が混ざり合う空には、何億光年も離れた恒星の光が鏤められている。そこから溢れた淡い光は、小さく細い雨粒と混じり合い、地上の湖へと不規則に落ちていった。

 天の器の端、東の地平線の少し上。そこには十六夜月が青白く揺らめていている。

 凪いだ夜の空気は冷たく、美しく、寂しく、そして全てが透き通っていた。


 そんな幻想世界をステージに、純白のドレスに身を包んだ少女は一人踊っていた。

 足を動かすたび、水面は揺れ、手を動かすたび、光を断ち切る。


 音楽どころか音など一つも聞こえない。けれど、決してリズムを崩さず、何かを表現するかのように舞っていた。

 その様子を見ていると、頭の中でヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが順々に音を奏で始める。やがて一つの曲となり、セレナーデを演奏するようになった。

 見ていると聞こえてくる。軽やかな弦の震える音が。ゆったりと空気を伝う音が。重く低く響く音が。


 そんな光景に、ただ飲み込まれていた。

 呼吸さえ忘れてしまいそうになるほどに、目を奪われた。

 なんと表現したらいいのだろう。どんな言葉ならこれを表せるのだろう。

 自分の頭を埋め尽くすこの感情さえ言葉にできない。

 今はただ、胸の底から湧き上がる感動を、全身で感じていた。

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